【書評】「神待ち少女」黒羽幸宏


神待ち少女 神待ち少女
黒羽幸宏

双葉社 2010-02-16
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人は神に認められても、決して満足はしない。
人は人に認められたいんだから。

「神待ち少女」とはインターネット上で相手を募集し、見つかった相手に「食事」をご馳走してもらったり、「部屋」に泊めてもらったりしている若い女の子達の事。
しかし、それでは昔からよくある「援助交際」と特に代わりはないのでは?
という疑問が浮かぶのだが、肝心な点として彼女らは決して「相手とセックスをしない」との事。

本書は冒頭、著者の黒羽さんが打ち合わせの席にて偶然「神待ち少女」という言葉を初めて聴いた所からスタートする。
黒羽さんが「見返りのセックスをしない事」への疑問を相手に尋ねた所こういう返答が返ってきた。

P12
「だからこそ”神”なんじゃないですか? 無償で金や食事、そして寝床を用意してくれる男こそが、彼女たちからすると”神”。見返りを要求しないからこその”神”なんだと思いますよ」

それをきっかけに「神待ち少女」に興味を持ち、取材をする事を決意する事に。

P5
「本書は15年間も女にまつわる記事を手がけてきた物書きが、偶然「神待ち」という言葉と出会ったことから、導かれるようにして神と神の降臨を願う少女たちを追い求めた軌跡である。
願わくは「神待ち」に関する先入観を排除して本書を最後まで読んでいただけたら幸いである。」

以下、目次

はじめに
第一章 神の降臨を願う少女たち
第二章 元神待ち少女の降臨
第三章 神待ち少女の告白
第四章 神の告白
第五章 神待ちの真実
おわりに

著者が実際に「神待ち」の掲示板を利用して、何人かの「神待ち少女」と出会い、取材を進めて行くのだが、援助をする「神」の方にも取材をしている点がとても興味深かった。

P90
「いずれにしても、90年代の援助交際というのはバブルをどこか引きずっていたように思う。いまも援助交際という文化はあるが、基本的にその本質にあるものは、あまり変わっていない。金がないからすぐに金になる援助交際でお手軽に稼ぐ。そんな女たちを「素人」と崇めて金を払う男たちという図式だった。
00年代末期に登場した神待ち少女たちとなにがどう違うのだろう。
神待ち少女は無条件に食事と寝床を用意してくれる男を切望している。決して本番はせず、願った神が降臨するのをひたすら待ち望む。心が病んでいるようにも見えるし、実は新たな生き方を見つけ、楽しんでいるようにも受け取れる」

本書に登場する「神待ち少女」たちのエピソード読んでいて感じた共通点は「自信の喪失」。
彼女らは、他人から褒められる事も、認められる事もほとんどなかった。
自分への「自信」を喪失していて、それをなんとか埋めようとして相手を求めている。
そして、その自信喪失は何処で起こって来たのか???
本書で取材された人物達の多くは「家庭」で起こって来たようだ。
一番身近な存在である「親」に認めてもらえない。
だから見返りを求めない相手を毎日探している。

そしてその自信の喪失は「少女たち」に限らず「神」の側にも言えるのだと感じた。

P124
「こんな刺激的な生活があることを知ったら帰りたいとは思わない。帰ってもどうせ親に馬鹿にされるだけだし。それだったら神に認められたりする方がよっぽどいい」

P125
「それに、彼女たちは自分史を話したがる。会って数分で、リストカットをした過去や、義父に犯された話、薬物に手を染めているという告白をする。そこまでディープなものではなくとも、昔だったら関係が深まり、ある程度の段階を経て、信用できる相手かどうか探ってから話していたような身の上話を平気でする。
……
きっと彼女達の周囲には、まともに話を聞いてくれる大人がいないのだ。」

本書に書かれている少女達の日常生活エピソードは「同じ日本なのか?」と思わず疑ってしまう程、生々しい内容がほとんどである。
少女たちは毎日「神」たちと微妙な駆け引きを続け、「生活」「心」のバランスをなんとか取ろうとしている。

「第五章 神待ちの真実」では、少し衝撃的な展開を迎えることになる。
ある一つの出来事が起こるのだが、この章に関しては、著者の感情がひたすらストレートに書かれていて、読み手側の自分としてはそれらの言葉の一つ一つが感情の攻撃として突き刺さって涙が止まらなかった。
「怒り」「悲しみ」「葛藤」色んな感情が混ざって、著者のどうしようもない精神状態が表現されている。
「世の中には希望も何も存在しないのではないのか?」とも感じてしまった程。

しかし、それを乗り越えた著者の最後の言葉に救われた。
「あぁ、この言葉が嘘じゃないのなら、世の中も捨てた物じゃないな」と素直に感じた。
そして少しだけ嬉しくなってきた。

「神待ち少女」たちが、著者の黒羽さんを信じたように、私も彼の最後の言葉を信じてみようと思う。

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