【書評】「お金をちゃんと考えることから逃げまわっていたぼくらへ」邱 永漢, 糸井 重里


お金をちゃんと考えることから逃げまわっていたぼくらへ お金をちゃんと考えることから逃げまわっていたぼくらへ
邱 永漢 糸井 重里

PHP研究所 2001-03-12
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それが「大事な事」であればある程、ぼくらは向き合う事を恐れてしまう。

糸井重里さんと、「お金儲けの神様」と言われた邱永漢さんとの対談本。

P22
「ぼくは相変わらず、お金に不自由なまで暮らしていますが、やっぱりそれは、今まで、お金について考えることから逃げまわっていた、ということも関係するんじゃないかと思うんです。
 なんでお金について考えてこなかったのかと自己分析をしてみると、たぶん、それは……怖かったんじゃないかなあ。」

冒頭でそう切り出した糸井さんに対して邱さんは、

P23
「お金はね……怖いですよ。
「もしかして自分は、お金のことに対して、あまり能力がないのではないか?」
それは誰でもが、おそれている事柄だと思うんです。」

という返答をし、糸井さんからの質問形式で本編がスタートする。

まず目次を紹介。

糸井重里より、はじめに。

第一章 お金について、どう考えはじめればいいのですか?
お金は怖いものでした
そんなぼくがお金のことを考えた
息子には一年分のお金をあげましたよ
おこづかいはいくらあげてましたか
男の子と女の子とでは、お金の教育が違ってきます
人間は、むやみにはお金を欲しがらない?
子どもにはぜいたくを教えるべきです
不良少年は「何かと、ちょっと早いだけでしょう?
お金は汚いものなんでしょうか?
今のお金の哲学のもとは、徳川時代だと思います
「包丁一本……」じゃ苦しいですよね
倹約してさえいれば安心なのでしょうか?
お金は、貧乏人には大きく見えます
「運」という言葉をたくさん使いますよね
人間は、自分の見たいものしか見ないですから

第二章 事業・株式上場・給料生活。話題のインターネットも
株式上場をするほど落ちぶれていないです
事業って作品のようなものなんでしょうねぇ
今は人が欲しいからお金がいるんです
邱さんって考えていることが先すぎるもん
事業は果樹園のようで、収穫するまでに時間がかかります
給料生活についてどう思われますか?
大陸の人は給料を払う側になって生きたいと考えます
欲望をないものにしたがりますよね
日本人とは違う生き方が必要でしたから
現地採用のつもりで働いたほうがいいんです
学校中退じゃないと、出世できないですよ
四十八歳くらいまでやりたいことがわからなかった
お金の流れは黄河の流域みたいなものです
依存をしていると、生きていられない
人を採用するのは、怖いです
邱さんの提案を断ったんですけど……
林が深ければ鳥が棲む。水が広ければ魚が泳ぐ
ネットバブルで儲けている人は世間知らずが多いです
「ほぼ日刊イトイ新聞」に邱さんが登場したいきさつ
「ほぼ日」はポテンシャルだけありまして
思ったらすぐにはじめます
中国語で顧客を増やします
ぜんぶ自分でやらないとダメなんです

第三章 人間・邱永漢が知りたくなります
銀行には頭を下げられませんでした
邱さんのご両親はどんな人でしたか?
やっぱり、「ひながた」はあるんだなあ
お金をたくさん持つと苦労が多いです
ぼくの歴史は失敗の連続ですよ
邱さんでさえ惑わされますか?
今までどう惑わされてきたかを聞きたいです
慢心している余裕がありませんでした
権威を等身大で認めています
奥さんがいいこというんですよねえ
結婚にも当たりはずれがありますね
結婚はダメになりかけていると思います
奥さんとどうお知りあいになったのですか?
隣の家はクレオパトラの屋敷のようでした
邱さん、あのう、さっきの奥さんの話……
あるとき突然ぼくは大金持ちになったんです
鯉に餌やるみたいですね
人と同じことをしていても意味がないんです
いいことは長く続きません
本は、お金儲けの役には立ちません
本当にやりたいことで成功する人は少ない

第四章 人生というゲームを生きるために
不思議なことにいちばん底までは落ちません
心では泣いてますよ
邱さんですら自分を女々しいと思うのですか?
「お金を払うから次も」は困りますよね
人生そのものがゲームです
幸せって何なのかを考えはじめたんですよね
素人のほうが工夫をするからいいんです
前に活躍していた選手は復活しないんですか?

第五章 人の気持ちがわかれば、商売のヒントもわかります
若い人から企業の相談を受けたらどう答えますか?
産業界の推移を一部始終見てたんですよね。おそろしい
糸井さんのインターネットのこの先の展開が楽しみです
100万アクセスにはどうすればいいんですか?
今は、無料のブローカーとしてやっています
まだやらないだけで、すぐにでも商売にはなりますよ
あきさせないのが「あきない」です
インターネットでやれる仕事がわかってきました
人材を集めるコツは、何でしょうか?
「強気八人、弱気二人」で、人とつきあうといいんです
人間の移り変わりは、サイコロのようなものです
苦しみだけを望んでいる人は、半端なことしかできないと思います
苦労したいとは思わないけど、させられるんです
ツメの垢を飲んでも元気にならないですよね
実業と文学の境目に、ネットの読者は惹かれます
商売をするときにはどっちつかずではいけません

第六章 自分のセンスと、お金を容れる器
邱さんにとって、「いい」「偉い」って何ですか?
自分の居場所も変化しているのですか?
「人に信用されている」を、いちばん重んじます
お金が基準じゃ間違いをおこすだろうなぁ
自分をわかることは、できるものでしょうか?
「お金を容れる器」の大きい人と小さい人がいます
ぼくの「お金を容れる器」は、小さくないですか?
仕事が頂点に達する時間が長いほど、繁栄も長いです
人のセンスが、ないがしろにされてきたけれど
座敷牢の逆を実践されてますよね

第七章 未来のことを経験している人は、誰もいないけど
人はもともと孤独なものでしょう
自分を快く思わない人に、心が痛みませんか?
人を信用できなかったら、仕事は何もできません
邱さんは、どういうふうに未来を見ていますか?

邱永漢より、おしまいに。

邱さんは自分の息子に「お金の免疫力」をつける為の教育として、以下のようなエピソードを紹介した。

P27
「でもぼくはね、干渉してはいかんという考えなんです。自分で覚えろと。
だから、例えば、うちの息子がアメリカに留学に行くときにもそうしました。
ふつうだったら、サラリーマンをやっている親は、毎月仕送りをしますよね。「あるお金の範囲内」で暮らせというように。
でも私は、一年分のお金をあげましたよ。

……省略

一ヶ月の間の仕送りだと、たとえむだづかいをしても、最後の一週間だけをパンと水で暮らしていれば、飢え死にはしないわけです。でも、もし一年分を早くに使ってしまったとしたら、あとの残りを生きられないですから。」

「一年分の生活費」を実際に一括で仕送りができる経済力の家庭がどれほど存在するかはおいといて、学生のうちにお金と向き合える機会作るというのは、その後の人生において極めて重要な事だと思う。

実際問題、家庭でも学校でも「お金の使い方に関しての教育」がされる機会はほとんどない。
何か「お金に関する話題はタブー」のような暗黙の空気がそこにはあって、お金に関してのリテラシーは「実際に社会に出て、自分で体験して身につけるもの」という風潮があるような気がする。

しかし、私はお金に関しての教育や、使い方のコツ等は、「実際に社会に出てから」では遅いのではないかと、感じている。

「どうしてタブー視されているか?」という点に関して、邱さんはこう語る、

P40
 日本人は、「自分が生きているのは、お金のためではない」という考えを、どうも、美徳と考えているでしょう。
 それはどこからきているかというと、やっぱり、宮仕えからきていると思います。サムライとして殿様に仕えるのは、決してお金のために仕えているんではないかというか……。そういう秩序の中で育っているからだと思います。
 日本の古い歴史を読んでいると、戦国時代の日本人も、そうでなかったようにも見えます。例えば秀吉が本能寺に信長のカタキを討ちに戻るときには、自分の持っていたお金を家臣たちにぜんぶあげちゃって、「今度ここで勝たなかったら、みんなもう、めしも食っていけなくなるよ」と、あとに引けないように激励していますから。
糸井 それ、ベンチャーですねえ。

糸井さんのこの返しが絶妙である。

本書の最大の魅力はこの二人の掛け合いである。
経験豊富な邱さんの回答は物事の真理をついているかのように思え、そしてそれに対しする糸井さんの返しがまた絶妙。毎回サクッと心に入ってくる。

以下に、印象に残ったフレーズを引用する。

P76
「結論からいえば、今、日本中でいちばんいいと思われている会社に就職しては、いけないんですよ。その会社だって、二十年前にはいちばんいい会社ではなかったのですから。その理論でいえば、今いちばんいい会社は、二十年後に必ずダメな会社になるに決まっています。」

P118
糸井「前に、建築家の建築がダメになるのは、奥さんの影響が大きいという話を聞いたことがあります。建築家の人たちは、年をとって名声を得てくると、自分の奥さんの気に入るような建築ばかりをつくるようになるからなんだそうです。」

P201
「大事業家というのは、同じことをくりかえしている人のことでしょう。自分が失敗しないですむとわかっている安全パイだけ振って、拡大していくだけのことですから。
それに比べると、ぼくなんか、どこかに失敗することを前提として、冒険をやっているようなものですよ。」

P212
「大きな事業を手がけている人でお金をたくさん持っている人は、少ないんです。
もっと大きな仕事をやろうと思うと、もっとたくさんのお金が必要になりますから。」

P214
「お金というのは、明らかに儲ける側と使う側のバランスがとれていないとダメだと思うんですよ。」

本書を読んでいると「常識」というフィルターを外して「本質」を見るという事の大切さをあらためて考えさせられる。

「儲かっている」=「良い」
とか、
「事業が大きい」=「お金持ち」
という物の見方ではなくて、もっともっと本質的に迫った物の見方。
それは、多くの人から言わせると異質な視点に移るかもしれないが、未来を見据えた極めて論理的な物の見方である。

邱さんは「先の展開が見え過ぎて、その時点でその話をしても誰にも相手にされなかった」
という経験がとても多かったとの事。
それは、邱さん自身が「常識というフィルター」を取っ払って、本質を見る癖を身につけていたからなんだと思う。

最後に、

P234
糸井「だまされたことで臆病になって、人が信用できなくなったことはありますか?」
「相手が違うと、また元に戻ってしまいますね。
人を信用しなかったら仕事ができないですから。」
糸井「ああ、そうか……はっきりとそうですね。」
「裏切られたりだまされたりすることはあるけれど、僕は基本的に「人を信用することによってしか仕事はできない」と思っています。だから「本当によく懲りないね」といわれるんですけれども。

ここを読んで、邱さんの人柄の素晴らしさが大きく伝わって来た。

この先、自分の人生において、色々な困難も度々あると思うが、
「相手を信用できる心」を、常に持ち続けて行きたいと切に感じた。

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