【書評】「本質を見抜く力 環境・食料・エネルギー」養老孟司・竹村公太郎


本質を見抜く力―環境・食料・エネルギー (PHP新書 546) 本質を見抜く力―環境・食料・エネルギー (PHP新書 546)
養老 孟司 竹村 公太郎

PHP研究所 2008-09-13
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「歴史はエネルギー戦争の繰り返し」

言わずと知れた東大名誉教授の「養老孟司」さんと、元国土交通省の「竹村公太郎」さんとの対談本。
後半には、明治学院大学の「神門善久」氏が加わる。

まずは、目次を紹介。

第一章 人類史は、エネルギー争奪史
石油産出量のピークは2010年
アメリカ自由経済の絶対条件
アメリカは圧倒的な石油産出国だった
「先の日米戦争は油で始まり油で終わった」
日本軍はなぜ石油問題を無視したのか
メディアはいちばん大切な問題を見ない
アメリカに石油を使う権利はない
アメリカ人の「資産慣性」は後戻りがきかない
日本人はすでに「オイルピーク」を経験している
人間はみんな、エネルギーを使い尽くしてきた
人類史は、エネルギー争奪史
地元の川に水車を設置せよ!
故郷がない人も、故郷を作れ
「国土の70パーセントが山」という幸運

第二章 温暖化対策に金をかけるな
縄文時代の寒冷化が稲作を可能にした
IPCCの温暖化シミュレーションへの疑問
「自然状態を元に戻す」という考え方は危ない
温暖化対策に金をかけることの愚かさ
京都議定書は詐欺
温暖化がもたらす最大の問題とは

第三章 少子化万歳 小さいことが好きな日本人
この150年間、人口はバブルだった
人材の画一化が問題だ
参勤交代によって形成された情報網
なぜ、人口が増えると戦争が起こるのか
アメリカ国債を燃やしてしまえ
日本が植民地にならなかった理由
いまの官僚制度のルーツは江戸時代にある
武田信玄のアイディアを盗んだ徳川幕府
モノから考える政治家が必要だ
信頼を得るための対話
日本では身体を動かすことが喜ばれる
日本人の性向を作った自然条件
小さいことが好きな日本人
馬車を使わなかった日本人
虫が好きなのは日本人だけ!?
日本はそろそろ店じまいの時期だ

第四章 「水争い」をする必要がない日本の役割
人間という生物が、水に依存していることの不思議
日本では水は足りているか
水を運ぶのは大変
東京は、毎日甲子園球場四杯分の水を収奪している
パレスチナ問題は実は水問題
水問題における日本の強みは、国際河川がないこと
利根川東遷を実現させた、家康のすさまじい構想力
湿地に大都会を造ったのは日本だけ
なぜヒマラヤでは海抜4000メートルの高地に虫がいるのか
黄河、揚子江、ガンジスが消える!?
水中心の文明を、世界レベルで再構築せよ

第五章 農業・漁業・林業 百年の計
農業を支えるシステムが日本の農業を危うくしている
食糧自給率40パーセントは八百長だ
やっぱり、「ほどほど」を考えるようにすればいい
いちばんの問題は漁業
海を回復させるために必要なこと
東京湾に「死の穴」ができている
間伐は百年後への投資
事務次官は東大法学部ばかり

第六章 特別懇談 日本の農業、本当の問題
(養老孟司&竹村公太郎&神門善久)
日本の本当の農業は30万戸強だけ
福井県・日野川河原の田畑は国営?
土地の本当の持ち主が誰か、日本には確かなデータはない
平場の有料農地がなぜ耕作放棄されるのか?
日本の農業には大変な可能性がある
農地の「錬金術」
この15年の堕落ぶりはひどすぎる
「土地への愛着」は当然の感情か? それとも欺瞞か?
問題を直視すれば、かならず解決策がある
「そんなことを言うのはとんでもない」の誤り
医療はどれだけ社会の役に立っているのか
日本の民主主義の未成熟、その一因は同質性
いちばんの問題は、「正直か、不正直か」
マスコミによって美化される農業
概念ではなく、モノで話せ

第七章 いま、もっとも必要なのは「博物学」
こんな文明、ぶっ壊してもいい
牛肉は三週間に一度でいい
なぜ日本人はペットボトルの水を飲むようになったのか
「平均の顔」が美人になる
「正しい受け取り方」はあっても、「正しいやり方」はない
関東地方の原風景 渡良瀬、小網代
地理学が不当に貶められている
下から積み上げていく学問が普遍性を得る
日本の川は、昔の川に戻りつつある
答えを求めず、「ものの見方」を身につけよ
言葉には「一般化」の機能がある

油田の産出量に関しての話題から対談がスタートする。
竹村氏は、油田が発見されてから、インフラ整備を行い、石油の産出量がピークを迎えるのが、油田発見から約50年後になり、オイルピークが過ぎると需要と供給にギャップが発生し、価格の暴騰に繋がる傾向が高いと語る。
そして現在はちょうど50年前1960年代に発見された油田の産出量ピークの時期にあたるとの事。

P14
養老「経済的に工業製品などの生産量を増やしていくと当然エネルギーが必要になります。つまり、アメリカの言う自由経済は、原油価格が上がらないという前提あっての概念なんですよ。そこで原油が上がると何が起こるかというと、不景気になって経済が停滞するわけです。」

そして、いかに世界が「エネルギー」を求めて戦争を始めることになったのかという話題になっていく。

P21
竹村「昭和天皇は、「先の日米戦争は油で始まり油で終わった」とおっしゃっています。私はそれを読んだときから油のデータを集め出しました。あの戦争のすべてを知っている方が、これほど明快な言葉を残しているわけですから。」

戦争には「大儀」があるがそれはあくまで「建前」であって、実際は「エネルギー」を奪い合う為に戦争を繰り返してきたという事が本書を読み進めていくと実感する事ができる。

その対象となるエネルギーは主に「石油」と「水」。
日本で暮らしていると実感が沸かないが、「水」を争奪する争いは常に発生しているという。

「どうして日本では水問題が起こらないのか?」という疑問の答えとして「日本には国際河川がなく、日本の川しかない為、他の国と争う事がなかった」というのが理由とのこと。

P121
竹村「ライバルという言葉はリバーが語源だそうです。同じ川の水をめぐり競争する同士というわけです。」

エネルギー問題の話題が大部分を占めるが、「日本」自体の話題についても考察が深いと感じたのが本書である。

P101
竹村「たしかに日本人は細工をしないと「不細工」と言うし、つめ込まないと「つまらない」と言う。細工をして縮めることは日本人の美意識になってしまった。
——-省略
日本人は何千年もの間、馬車に乗らないで歩きまわっていました。大名行列だって足軽は歩いています。あの人たちは、ひたすら荷物をどうやって小さくするか、どうやって軽くするかを考えていたのではないか。日本人はものを何かに乗せて運ぼうと考えずに、軽くすることだけを考えて小さくし、つめ込んだのではないか。」

海に囲まれた小さい島国という環境が、日本人の職人的な気質を作り出したというとても興味深い考察だと感じた。
加えて日本は災害が多く、歴史的に「我慢する」という習慣が繰り返されてきて、それが「日本人気質」の一つにもなっているではと思われる。

養老氏が語るエピソードで特に興味深かったものを一つ、

P221
養老「東大の原島博さんという人が、コンピューターで学生の顔を重ねてみたところ、百人分重ねてみると、重ねたからぼけていますけど、きわめて整った顔になったのです。
—–省略
我々はずっと人の顔を見ていますから、顔に対する見方がおそろしく成熟している。そうだとすると、顔の美醜をおそらく平均からのズレで判断するわけです。顔全体が平均に寄れば寄るほど、点数が辛くなり、見るほうが敏感になると考えてもらっていい。すると「本当に欠点がないなあ」というぐらいに全体が揃っている顔が稀にしか出てこなくなるのです。
—–省略
ですから、時代によって美人は違うんです。平安時代は下膨れがもてはやされました。これは当たり前のことで、時代によって平均顔がずれてくるからです。」
竹村「それは面白い、平均顔が美人だなんて。」

時代によって「平均的な基準」というのは勿論変わるわけで、しかし、まさにその時代に生きている当事者になってしまうと「平均的」を「絶対的」と錯覚してしまう傾向があると思う。

「平均」はあくまでも「平均」でしかない。

今現在世の中で多数決的に「正しい」と言われている事、又、「間違い」と言われている事。
それはあくまでも「その時点では、それについてそう思っている人が多かった」というだけの事であり物事を判断する時においての「絶対的な基準」にしてしまう事は非常に危険である。

それはたとえば「常識」という言葉であったり「正義」という言葉もそうだろう。
我々が「それは常識だ」「それは非常識だ」「それは正しい」「それは間違い」「賛成」「反対」と、当たり前に思っている事は、50年後にはまったく逆の考え方になっている可能性が十分にありえる。

人は、流されやすい。
特に集団になるとそれが顕著になる。
多くの人が「こうだ」と言っている事に流されやすくなる。

我々は何かの判断を下す時、特に何かについて「それは正しい」「それは間違い」という二者択一を迫られた時に
「私は周りに流されていないか? 物事の本質は、そもそもそこにあるのか?」と自分自身に問いかけてみる必要があるのではないか。

人はどうしても「二者択一」にしたがる。
そもそも物事を「二者択一」で考えて解決に向かうのだろうか?

そう思わせてくれた本であった。

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