【書評】「2ちゃんねるはなぜ潰れないのか?」(ひろゆき)


僕が2ちゃんねるを捨てた理由 (扶桑社新書 54) 僕が2ちゃんねるを捨てた理由 (扶桑社新書 54)
ひろゆき

扶桑社 2009-05-29
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「そのユルさ、IT癒し系」

2ちゃんねる元管理人「ひろゆき氏」のIT業界に関しての考察を書いた本。

まずは目次を紹介、

「チャンネル」に関する全国300人アンケート

「1.0」まずは結論
2ちゃんねるが潰れない理由/2ちゃんねるの未来

「2.0」ITのウソ
Web.2.0はマイナイオンと同じ/グーグルのオープンソース/「Don’t be evil」はこう訳す/A株とB株/すごいのは企画力と営業力とサーバーメンテナンス/はてな?/「大麻」で検索してみる/ミクシィ株は高い/IT企業の時価総額/もしも堀江さんが逮捕さていなければ……/企業が儲かっても国民は儲からない/孫正義の怪気炎/ビル・ゲイツは偉大

「3.0」明るい未来への誤解を解く
Youtubeが買収された理由/ニコニコ動画、存続の危機!?/人が集まる動画コンテンツ/素人でも面白い動画が作れた/動画CMは見ない/Youtubeは発明ではない/CGMで大儲けできるかな/CGMの成功例/頑張れセカンドライフ/つまらなさを認識させない複雑さ/微妙なRMT市場/RMTはWeb3.0?/マイクロソフトのビジネスモデル/ビジネスソフトの今後/BtoCで成功している企業はBtoBで失敗する/インターネットの未来

「4.0」
対談 佐々木俊尚 ひろゆき/西村さんの言ってることは、身も蓋もなさすぎてついていけない/そも/そもインターネットはWeb2.0/西村博之は悲観的である/2ちゃんねると公共性

「5.0」間違いだらけの法律
2ちゃんねる裁判/ウィニー裁判とスピード違反/宇宙旅行と刑務所/法律で止められる技術革新/トンデモ法律/法律を逆手に取る/日本の法律のいいところ、悪いところ/禁煙とインターネットの違い/チャイルドポルノはなくならない/ダウンロード板の”神”は鼠小僧

「6.0」メディアと2ちゃんねる
2ちゃんねるの高齢化/西村博之のニュース性/インターネット事件のカラクリ/新聞より2ちゃんねるを信用する人々/集合知を疑え/管理人を続ける理由/スーパーフラット2ちゃんねる

「7.0」対談 小飼弾 ひろゆき
2ちゃんねるは、僕が潰させませんよ/2ちゃんねる為政者側説に迫る/インターネットは稼げる/思考の止め方がわからない/世界が極端に狭くなった/優秀な技術者は優秀な経営者なのか?/みんなハードウェアに縛られている/本当に必要な技術/人間のI/Oデバイスはしょぼい/2ちゃんねる、中国進出か?

あとがきです

タイトルになっている「2ちゃんねるが潰れない理由」については、最初の数ページで説明が終わってしまう(笑)。
その後は、ひろゆき氏のIT界についての考察が展開されていく。

映像等でひろゆき氏を見ると、いつもひょうひょうとしていて、軽い感じの人間に思いがちだが、本書を読んでみると、一つ一つの物事に関しての観察眼がとても深いと思える事がほとんどである。
常識や流行思考に流されずに、常に物事の本質を見据えていて、今でもネット業界に大きな存在感を持ち続けている理由が分かるような気がする。
やはり彼は抜群に頭が良い。

後半の対談部分では、読者の事をあまり重要視しない専門用語も含めたトークが展開される。
この変はひろゆき氏持ち前の「ユルさ」で、逆に好感が持てた。

ひろゆき氏の物事の考え方は、いわゆる「合理主義者」という部類にカテゴリされるのだと思う。
合理主義的考え方は、ビジネス時以外では「冷たい」「身も蓋もない」「人間味が無い」といった評価で敬遠される事が多いような気がするが、彼の合理的考え方にユルさが加わると、逆に好感を持ててしまう。
そこが彼の強烈なキャラなんだなぁと。

全体を通して、とても洞察が深くて、各項目が物事の本質に迫っている内容が多い本書であるが、「ユルさ」が全開になっていて、読んでいて疲れないし、変に癒される本である。

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▼関連記事

合理主義(Wikipedia)

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【書評】「働けません。」6つの“奥の手”


働けません。―「働けません。」6つの“奥の手” 働けません。―「働けません。」6つの“奥の手”
湯浅 誠 日向 咲嗣 吉田 猫次郎 春日部 蒼 李 尚昭 しんぐるまざあず・ふぉーらむ

三五館 2007-12-14
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「知らないのは損」

「働けません。」というタイトルが少し強烈な感じがするが、実際に働けなくなったり・資金繰りに困った時等に利用する事ができる行政の制度を色々紹介した本である。

まずは、目次を紹介。

はじめに 「働けません。」とあなたの狭間
第一章 生活保護を受ける
第二章 失業保険をもらう
第三章 住宅ローン返済をやめる
第四章 法律扶助を受ける
第五章 社会福祉協議会の貸付金を借りる
第六章 児童扶養手当をもらう
おわりに 「働けません。」宣言のために

「生活保護」に関しては、制度としてはなんとなく知ってはいるけど、詳しくはよく分からないし、あまりお世話になりたくないと思っていたし、おそらく大抵の人が同じように思っているのかもしれない。
しかし、本書を読んで仕組みをある程度知ると、本当に働けなくなった場合に利用しないのは損だなと感じた。
日本には、困った時に助けになる制度が色々あるんだ、という事が理解できる。

特に今回はじめて知った「法律扶助」という制度に関して、とても参考になった。
その法律扶助の項目では「法テラス」という団体が紹介されている。

P131
 法テラスとは、愛称であり、正式には、日本司法支援センターといい、「民事・刑事を問わず、あまねく全国において、法による紛争の解決に必要な情報やサービスの提供が受けられる社会を実現することを目指す」ことを理念としています。
 要するに、だれでも、法律サービスを受けられることを目的に活動している組織です。
……省略
つまり、トラブルに巻き込まれたが、どこに相談すればよいかわからない場合に、まず法テラスに電話をして、具体的にどこに相談すればよいかを聞くことができるのです。

年収等、特定の条件に当てはまれば、通常時よりも遙かに安い金額で弁護士に相談ができたり、弁護士費用の分割払いも可能になるとのこと。

「弁護士費用は高いので一般市民は手が出ない」と、ずっと思っていたのだが、助けになる制度があると知って一つ参考になった。

未来はどうなるか分からない。
もしかしたら、明日突然働けなくなる事態が発生するかもしれない。
そんな緊急時に利用できる制度をあらかじめ知っておけば、何かあった時も慌てないで生活する事が可能になる。

知らないのは損である。

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▼関連項目

法テラス|法律を知る 相談窓口を知る 道しるべ

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【書評】「減らす技術」レオ・バボータ


減らす技術 The Power of LESS 減らす技術 The Power of LESS
レオ・バボータ

ディスカヴァー・トゥエンティワン 2009-08-05
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「人は無意識に複雑にしてしまう」

俗に「成功本」とか「ビジネス本」とか「ハウツー系」等と呼ばれる本は、読書を始めた一年目くらいの時期にだいたい100冊近く読んで、大抵が同じような内容という事が分かってしまったので、最近は新しく購入する事は滅多になかったのだが、この本に関しては「著者の体験」が自分が体験した事とあまりにもソックリだったので、思わず購入してしまった。

まずは、目次を紹介。

押しよせる”波”の中でやすらぎを見つける
シンプル・イズ・ベスト
2年で私の人生は一変した
人生をシンプルで生産的にする「6つの原則」
「減らすこと」で人生は変わる

「パート1・原則編」
さあ、減らすことを始めよう やることを減らすとなぜ成果が上がるのか?
「減らすことの威力」を俳句に学ぶ
もっともインパクトがあることを選ぶ
人生のあらゆる場面で制限する

減らす原則1 制限する
制限ある生き方のメリット
1度にひとつずつ変える
制限値を決め、習慣化する

減らす原則2 本質に迫ることだけを選ぶ
生産性だけ上げても意味はない
「本質に迫ること」を見極める9つの質問
さまざまな場面で9つの質問をする

減らす原則3 シンプルにする

減らす原則4 集中する
集中で人生改善
シングルタスクに集中する
「今」に集中する

減らす原則5 習慣化する
「習慣化チャレンジ」はなぜうまくいくのか?
習慣化チャレンジのルール
12の基本習慣からはじめよう

減らす原則6 小さくはじめる
小さくはじめると成功する理由
「いつでも、なんでも」はじめてみよう

「パート2・実践編」
減らすテクニック1 シンプル・ゴール
「ワン・ゴール」方式

減らすテクニック2 シンプル・プロジェクト
達成に集中する
プロジェクト・リストが思い通りにできないときに

減らすテクニック3 シンプル・タスク
もっとも重要なタスク(MIT)
スモール・タスク

減らすテクニック4 シンプル時間管理
時間管理が苦手な人はオープン・スケジュールでいこう
意識的に「フロー」に入る
自分の優先順位を知る
タスクを減らす
バッチ処理でまとめてかたづける
シンプル時間管理のツール

減らすテクニック5 シンプルEメール
“受信トレイ”を最小限に減らす
Eメールの処理時間を減らす
入ってくるメールを減らす
受信トレイを空にする
書く量を減らす

減らすテクニック6 シンプル・インターネット
インターネットの使用状況を自覚する
目的を持って計画的に使う
「オフライン」で仕事する
インターネット依存症を克服する

減らすテクニック7 シンプル・ファイリング
シンプルなファイル・システムを作る
家の中の書類整理に応用する

減らすテクニック8 シンプル・コミットメント
リストアップする
ショート・リストにする
大切でないものを減らす
「ノー」と言う
好きなことをする時間を作る
人生をシンプルにする

減らすテクニック9 シンプル・ルーチン
「朝ルーチン」の力
「朝ルーチン」を選ぶ
「夜ルーチン」で明日へのスーパーチャージ
「夜ルーチン」の基本例

減らすテクニック10 シンプル・デスク
すっきりとしたデスクの効用
最初の一歩を踏み出すには
本質に迫ることだけに絞る
「すっきり」を保つコツ
家の中もシンプルに
シンプル・ホームを維持するコツ

減らすテクニック11 シンプル健康管理
健康管理はなぜ難しいのか
シンプル健康管理プラン
ステップ1 エクササイズを習慣にする
ステップ2 食事管理に少しずつ取り組む
ステップ3 じわじわとレベルを上げながら継続する
エクササイズのモチベーションを高める方法30

減らし続けるために モチベーションをどう保つか
モチベーションとは?
スタート地点でモチベーションを高める8つの方法
つらいときにモチベーションを維持する20の方法

私の著者と共通した体験というのは、下記の事。

「ジョギングを習慣にした」
「ヘルシーな食事をするようになった」
「計画的、生産的になった」
「早起きの習慣を身につけた」
「菜食主義になった」(私の場合正確には肉を完全には禁止しておらず、野菜中心の食生活になった)
「人生をシンプルにした」
「20キロ近く痩せた」(私の場合は15キロ痩せた)

著者の体験談はまだまだあるのだが、自分とここまで体験がリンクした人間の事を知るのは珍しいので、そんな著者がどんな本を内容の本を書くのかとても気になってしまった。

本のテーマは単純で
「自分にとって重要でない事を極力減して、重要な事だけに専念する」
というもの。
「減らす」というか「シンプル」という言葉の方がしっくりする。

おそらく、ここら辺の内容をもっともっと深く理解したい場合は、「禅」に関する書籍を読むのも早道のような気もする。
後日レビューを書こうと思うが、「禅」に関する書物は大抵が「シンプルに生きる」という発想が書かれている事が多い。
おそらく、著者も禅の影響を少し受けているのでは? と感じた。

本書の中で著者は「人生をシンプルにするポイント」は以下のように語っている。

1 何が大切か見極める
2 関わり合いを見なおす
3 することを減らす
4 タスクやアポの間には空白時間を作っておく
5 ToDoリストの項目を減らす
6 スピードを落として、各タスクを楽しむ
7 ほかのことを考えながらやるのはやめよう。一瞬一瞬を大切に生きる
8 シングルタスクにする
9 ストレスを減らす
10 一人の時間を作る
11 何もしない時間を作る
12 シンプルなよろこびを1日にちりばめる
13 今を生きる
14 自由な時間を作る

本書のこの項目もそうだが、「成功本」「ビジネス本」に書いてある事を簡潔にまとめると、

「考えないで、すぐ行動する」
「自分の人生において、最も重要な事(環境や人間関係も含む)のみに集中する」
「休むときは徹底的に休む」
「身体の健康は心の健康とリンクするので、心身両方の健康維持を大切にする」

もっと、細かい点を言うとまだまだ項目があると思うけれども、(例えばポジティブシンキングとか。。。)代表的なところで、以上のような感じになると思う。

本書は「シンプル」「減らす」という点に関してターゲットを絞っているので、過去にビジネス書等を読んだ事があまり無い場合は入門編としてとても読みやすいと思う。
本書を読んだ上で、もっともっと「シンプル」という世界を見てみたいと思った場合は、「禅」系の本や、その他のビジネス書に手を出してみるのも一興。

「シンプル」という世界は、知れば知るほど「ディープ」になっていく。

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【書評】「本質を見抜く力 環境・食料・エネルギー」養老孟司・竹村公太郎


本質を見抜く力―環境・食料・エネルギー (PHP新書 546) 本質を見抜く力―環境・食料・エネルギー (PHP新書 546)
養老 孟司 竹村 公太郎

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「歴史はエネルギー戦争の繰り返し」

言わずと知れた東大名誉教授の「養老孟司」さんと、元国土交通省の「竹村公太郎」さんとの対談本。
後半には、明治学院大学の「神門善久」氏が加わる。

まずは、目次を紹介。

第一章 人類史は、エネルギー争奪史
石油産出量のピークは2010年
アメリカ自由経済の絶対条件
アメリカは圧倒的な石油産出国だった
「先の日米戦争は油で始まり油で終わった」
日本軍はなぜ石油問題を無視したのか
メディアはいちばん大切な問題を見ない
アメリカに石油を使う権利はない
アメリカ人の「資産慣性」は後戻りがきかない
日本人はすでに「オイルピーク」を経験している
人間はみんな、エネルギーを使い尽くしてきた
人類史は、エネルギー争奪史
地元の川に水車を設置せよ!
故郷がない人も、故郷を作れ
「国土の70パーセントが山」という幸運

第二章 温暖化対策に金をかけるな
縄文時代の寒冷化が稲作を可能にした
IPCCの温暖化シミュレーションへの疑問
「自然状態を元に戻す」という考え方は危ない
温暖化対策に金をかけることの愚かさ
京都議定書は詐欺
温暖化がもたらす最大の問題とは

第三章 少子化万歳 小さいことが好きな日本人
この150年間、人口はバブルだった
人材の画一化が問題だ
参勤交代によって形成された情報網
なぜ、人口が増えると戦争が起こるのか
アメリカ国債を燃やしてしまえ
日本が植民地にならなかった理由
いまの官僚制度のルーツは江戸時代にある
武田信玄のアイディアを盗んだ徳川幕府
モノから考える政治家が必要だ
信頼を得るための対話
日本では身体を動かすことが喜ばれる
日本人の性向を作った自然条件
小さいことが好きな日本人
馬車を使わなかった日本人
虫が好きなのは日本人だけ!?
日本はそろそろ店じまいの時期だ

第四章 「水争い」をする必要がない日本の役割
人間という生物が、水に依存していることの不思議
日本では水は足りているか
水を運ぶのは大変
東京は、毎日甲子園球場四杯分の水を収奪している
パレスチナ問題は実は水問題
水問題における日本の強みは、国際河川がないこと
利根川東遷を実現させた、家康のすさまじい構想力
湿地に大都会を造ったのは日本だけ
なぜヒマラヤでは海抜4000メートルの高地に虫がいるのか
黄河、揚子江、ガンジスが消える!?
水中心の文明を、世界レベルで再構築せよ

第五章 農業・漁業・林業 百年の計
農業を支えるシステムが日本の農業を危うくしている
食糧自給率40パーセントは八百長だ
やっぱり、「ほどほど」を考えるようにすればいい
いちばんの問題は漁業
海を回復させるために必要なこと
東京湾に「死の穴」ができている
間伐は百年後への投資
事務次官は東大法学部ばかり

第六章 特別懇談 日本の農業、本当の問題
(養老孟司&竹村公太郎&神門善久)
日本の本当の農業は30万戸強だけ
福井県・日野川河原の田畑は国営?
土地の本当の持ち主が誰か、日本には確かなデータはない
平場の有料農地がなぜ耕作放棄されるのか?
日本の農業には大変な可能性がある
農地の「錬金術」
この15年の堕落ぶりはひどすぎる
「土地への愛着」は当然の感情か? それとも欺瞞か?
問題を直視すれば、かならず解決策がある
「そんなことを言うのはとんでもない」の誤り
医療はどれだけ社会の役に立っているのか
日本の民主主義の未成熟、その一因は同質性
いちばんの問題は、「正直か、不正直か」
マスコミによって美化される農業
概念ではなく、モノで話せ

第七章 いま、もっとも必要なのは「博物学」
こんな文明、ぶっ壊してもいい
牛肉は三週間に一度でいい
なぜ日本人はペットボトルの水を飲むようになったのか
「平均の顔」が美人になる
「正しい受け取り方」はあっても、「正しいやり方」はない
関東地方の原風景 渡良瀬、小網代
地理学が不当に貶められている
下から積み上げていく学問が普遍性を得る
日本の川は、昔の川に戻りつつある
答えを求めず、「ものの見方」を身につけよ
言葉には「一般化」の機能がある

油田の産出量に関しての話題から対談がスタートする。
竹村氏は、油田が発見されてから、インフラ整備を行い、石油の産出量がピークを迎えるのが、油田発見から約50年後になり、オイルピークが過ぎると需要と供給にギャップが発生し、価格の暴騰に繋がる傾向が高いと語る。
そして現在はちょうど50年前1960年代に発見された油田の産出量ピークの時期にあたるとの事。

P14
養老「経済的に工業製品などの生産量を増やしていくと当然エネルギーが必要になります。つまり、アメリカの言う自由経済は、原油価格が上がらないという前提あっての概念なんですよ。そこで原油が上がると何が起こるかというと、不景気になって経済が停滞するわけです。」

そして、いかに世界が「エネルギー」を求めて戦争を始めることになったのかという話題になっていく。

P21
竹村「昭和天皇は、「先の日米戦争は油で始まり油で終わった」とおっしゃっています。私はそれを読んだときから油のデータを集め出しました。あの戦争のすべてを知っている方が、これほど明快な言葉を残しているわけですから。」

戦争には「大儀」があるがそれはあくまで「建前」であって、実際は「エネルギー」を奪い合う為に戦争を繰り返してきたという事が本書を読み進めていくと実感する事ができる。

その対象となるエネルギーは主に「石油」と「水」。
日本で暮らしていると実感が沸かないが、「水」を争奪する争いは常に発生しているという。

「どうして日本では水問題が起こらないのか?」という疑問の答えとして「日本には国際河川がなく、日本の川しかない為、他の国と争う事がなかった」というのが理由とのこと。

P121
竹村「ライバルという言葉はリバーが語源だそうです。同じ川の水をめぐり競争する同士というわけです。」

エネルギー問題の話題が大部分を占めるが、「日本」自体の話題についても考察が深いと感じたのが本書である。

P101
竹村「たしかに日本人は細工をしないと「不細工」と言うし、つめ込まないと「つまらない」と言う。細工をして縮めることは日本人の美意識になってしまった。
——-省略
日本人は何千年もの間、馬車に乗らないで歩きまわっていました。大名行列だって足軽は歩いています。あの人たちは、ひたすら荷物をどうやって小さくするか、どうやって軽くするかを考えていたのではないか。日本人はものを何かに乗せて運ぼうと考えずに、軽くすることだけを考えて小さくし、つめ込んだのではないか。」

海に囲まれた小さい島国という環境が、日本人の職人的な気質を作り出したというとても興味深い考察だと感じた。
加えて日本は災害が多く、歴史的に「我慢する」という習慣が繰り返されてきて、それが「日本人気質」の一つにもなっているではと思われる。

養老氏が語るエピソードで特に興味深かったものを一つ、

P221
養老「東大の原島博さんという人が、コンピューターで学生の顔を重ねてみたところ、百人分重ねてみると、重ねたからぼけていますけど、きわめて整った顔になったのです。
—–省略
我々はずっと人の顔を見ていますから、顔に対する見方がおそろしく成熟している。そうだとすると、顔の美醜をおそらく平均からのズレで判断するわけです。顔全体が平均に寄れば寄るほど、点数が辛くなり、見るほうが敏感になると考えてもらっていい。すると「本当に欠点がないなあ」というぐらいに全体が揃っている顔が稀にしか出てこなくなるのです。
—–省略
ですから、時代によって美人は違うんです。平安時代は下膨れがもてはやされました。これは当たり前のことで、時代によって平均顔がずれてくるからです。」
竹村「それは面白い、平均顔が美人だなんて。」

時代によって「平均的な基準」というのは勿論変わるわけで、しかし、まさにその時代に生きている当事者になってしまうと「平均的」を「絶対的」と錯覚してしまう傾向があると思う。

「平均」はあくまでも「平均」でしかない。

今現在世の中で多数決的に「正しい」と言われている事、又、「間違い」と言われている事。
それはあくまでも「その時点では、それについてそう思っている人が多かった」というだけの事であり物事を判断する時においての「絶対的な基準」にしてしまう事は非常に危険である。

それはたとえば「常識」という言葉であったり「正義」という言葉もそうだろう。
我々が「それは常識だ」「それは非常識だ」「それは正しい」「それは間違い」「賛成」「反対」と、当たり前に思っている事は、50年後にはまったく逆の考え方になっている可能性が十分にありえる。

人は、流されやすい。
特に集団になるとそれが顕著になる。
多くの人が「こうだ」と言っている事に流されやすくなる。

我々は何かの判断を下す時、特に何かについて「それは正しい」「それは間違い」という二者択一を迫られた時に
「私は周りに流されていないか? 物事の本質は、そもそもそこにあるのか?」と自分自身に問いかけてみる必要があるのではないか。

人はどうしても「二者択一」にしたがる。
そもそも物事を「二者択一」で考えて解決に向かうのだろうか?

そう思わせてくれた本であった。

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【書評】「戦場のハローワーク」加藤 健二郎

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【書評】「戦場のハローワーク」加藤 健二郎


戦場のハローワーク (講談社文庫) 戦場のハローワーク (講談社文庫)
加藤 健二郎

講談社 2009-12-15
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「さあ、あなたも戦場に行こう!!」

まえがきより
「行動しないで後悔する人生を選ぶか、それとも行動し突っ込んだ上で後悔する人生の方がよいと思うか。危険を冒してでもやりたいことをやる生き方と、やりたいことをやらずに身の安全を第一とする生き方と、どちらが自分の人生を大切にしているのか。これらへの答えとして、私はできる限り「行動して突っ込む」方を選んでいきたいと思うようになった。」

で、突っ込んだ先が「戦場」という、「他に突っ込む場所がなかったのかよ」言いたくなってしまうほど、大胆な行動に出た戦場ジャーナリストの加藤 健二郎さんの体験をまとめた本。

まずは、目次を紹介。

プロローグ 戦争とは究極の道楽である
●そうだ戦争行こう
飯を食うのに困らない生き方
●ニカラグア
戦場はときにナンパ天国だったりする
●エルサルバドル
ギャルナンパとバスジャック同行取材の関係
●イラン
イスラム圏で本当にナンパは御法度か
●ユーゴスラビア
戦場帰りで英雄になる
●日本人の命の価値は案外高い
●ホンジュラス
戦争国の隣にある楽園
●イラク戦争と「人間の盾」
戦争時のイラクはバックパッカー天国だった
●アフリカ
現地で金を稼ぎたければ……

戦地突入 まず戦場に辿り着くこと
●ニカラグアの場合
とりあえず「ジャーナリスト」宣言
●パキスタンの場合
嘘八百を並べてプレスカードを取得
●クロアチア・ユーゴの場合
大手やベテランのプレスと渡り合う第一歩
●トルコの場合
戦地突入はタイミングが命
●コソボの場合
個人の才覚が左右する戦地突入術
●イランの場合
報道ビザを取得できずに取材離脱
●潜入!! 密林ルート
反政府ゲリラと川下り
●エルサルバドルの場合
政府軍にとりあえず勝手に密着同行取材
●戦車戦
密着!! クロアチア軍VSセルビア軍
●国境越え1
ロシア軍包囲下のチェチェンへ突入
●国境越え2
空爆下のユーゴへは逮捕されて入国
●NGO
肩書きや美学など戦場では二の次
●北朝鮮の場合1
招待団として入国
●北朝鮮の場合2
密入国敢行
●イラクの場合1
調査団として入国
●イラクの場合2
「人間の盾」になる
●ニカラグアの場合
鉄橋建設技術者として信頼を得る
●チェチェンの場合
義勇兵に紛れ込む
●グルジアの場合
チームを組んだゆえの失敗

開戦前夜 戦場に行く前の準備
●必需品
取材のために準備するもの
●携行品
荷物は身軽に小さくが基本
●現地情報
マスコミ報道の裏を読む
●言語
外国語はギャルをナンパして習得
●戦争国到着
戦場野郎の溜まり場を探す

サバイバル 戦場で生き抜くために
●砲撃戦
弾丸の下で考えるべきこと
●ジャングル戦
敵は下痢と迷子になること
●市街戦
わずか一秒が生死を分ける
●鉄橋攻防戦
失敗、被弾、負傷、逃亡

逃走・脱出 生きるための逃げ方
●コスタリカ
CIA(たぶん)に逮捕される
●エルサルバドル
治安警察の追っ手から逃げる
●イラン
日本大使館に見捨てられる
●コソボ
隠し撮りの後は高級レストランで食事を
●南アフリカ
マリファナ密売の元締めとタッグを組む

売り込み 戦場取材で稼ぐ方法
●総合誌
雑誌に売り込む手順
●専門誌
単行本を出す最短ルート
●TV・講演
稼ぎの単価は出版物以外がデカい
●周辺ルポ
戦場の周辺はネタの宝庫である
●万国共通取材ノウハウ
海外で得た経験を国内で活かす
●自衛隊ルポ
戦場ルポと自衛隊ネタの甘い関係
●戦場バブル
こんなご時世だから戦争ネタは不況知らず
●失敗ネタ
案外儲からなかった北朝鮮

エピローグ 戦争屋という名の職業
●軍事評論家
日本のお国柄ゆえにオイシイお仕事
●戦場カメラマン
武器を撮れば金になる
●単独行動第一主義
コーディネーターはいらない
●戦争屋は隙間商売
ライバルゼロの世界へようこそ
●戦争屋の休暇
趣味に生きられる気楽な毎日
●デビュー当時
戦争取材だけでは食えなかった頃

著者はまず冒頭で、いきなりサクっと言い切ってしまう。

P14
もし戦場未経験者の人が彼らに「戦場へ行きたいんですけど」と相談をすると「危険だからやめたほうがいい」と渋い表情で言われることが多い。それは新規参入者に自分のマーケットを食われるのを恐れているからだ。つまり彼らがそうしてまで独占して守ろうとする「戦争屋」という職業には、それほどオイシイ面があるということである。

目次の最初の方を見ていただけるとすぐに分かると思うのだが、加藤さんの戦場ジャーナリストになった動機が、「女の子とイチャイチャしたいから」という一般的には極めて不純な点が好印象(笑)

もしも「正義の為に」という感じのコンセプトの本だったら、こちらも少し構えて、突き放したドライな視点で読むことになったと思うが、ラフにラフに正直な視点で書いているんだなと思えた瞬間に、スラスラと文章の世界に入ることができた。

というわけで、著者は戦争取材で行った現地でとにかく女の子をナンパするし、現地妻を作るし、もう大変(笑)

でも、「戦争現場の真実を」とか「ジャーナリズムに乗っ取って」とかいう本に比べると、この本の方がなんだか「現実」って感じがするような気がする。

「戦場で女の子をナンパした武勇伝」がひたすら披露(しかも画像付き)された後、次に実際の戦場でのエピソードが展開される。これがまたハチャメチャで、嘘をついて無理矢理入国したり、義勇兵になって参加したり、ゲリラに参加したり、と思ったら政府軍に密着してたり、等。

もし、著者が日本国内で同じような事をしていたら、ただの「ろくでなし」か「極悪人」にしかならないのだろうけど、それが戦場だからこそ読んでいても違和感なく受け入れる事ができる。
日本フォーカスで世の中全てを見ようとする事が、なんたる無意味な事であろうか。

その後は、戦場へ行くための準備や心構え、必要な道具は何か、実際に何を取材すると良いのか、戦場ではどのように立ち回ると安全か、帰国してから各メディアにどのように売り込むのが効果的か等、これから本当に戦場に行こうと考えている人の為のアドバイスが続く。

こんな実践的な戦争本は初めてである。
読んでいると高い確率で「あ、自分も戦場取材できるかも」と思えてしまうという、ある意味危ない本なのかも(笑)。
この本を読んで実際に戦場に行く人が増えても、著者の性格を察するに特に責任は取らないだろう(笑)。
むしろ「ようこそ楽しい世界へ」と喜んでいそうな気がする。

ところで、戦場系でいうと、渡部陽一さんのブログも定期的に興味深く読ませていただいている。
http://yoichi4001.iza.ne.jp/blog/

渡部さんも加藤さんも、一般的に珍しい生き方をしているのかもしれないけど、人間として正直に生きているという感覚を受ける。

正直に生きている人たちって、世間からは「ムチャクチャな人生」とか呼ばれる事が多々あるのかもだけど、もしかしたらそれくらいが人が生きる上ではちょうど良いのではと常々思っている。

「人生、ムチャクチャであれ」
なんというか、そんな感じかなぁ。
破滅的ではなく、ポジティブな意味で。

個性を爆発させた人や、本や、音楽って、それに触れていると、とても面白いし興奮する。
極めて端に立っているんだけど、絶対に落ちないような人。
何か、見えない仕組みで彼らは落ちない技術を持っている。

でも、立ち位置は極めて危険。

その器用なのか不器用なのか、良いのだか悪いのだか、正義なのか悪なのか、良く分からない、その”良く分からなさ”が見えた瞬間に強烈に魅了される。

そしてこう思うんだ。
「あなたは自分らしく生きている」
と。

—————-
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【書評】「お金をちゃんと考えることから逃げまわっていたぼくらへ」邱 永漢, 糸井 重里


お金をちゃんと考えることから逃げまわっていたぼくらへ お金をちゃんと考えることから逃げまわっていたぼくらへ
邱 永漢 糸井 重里

PHP研究所 2001-03-12
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それが「大事な事」であればある程、ぼくらは向き合う事を恐れてしまう。

糸井重里さんと、「お金儲けの神様」と言われた邱永漢さんとの対談本。

P22
「ぼくは相変わらず、お金に不自由なまで暮らしていますが、やっぱりそれは、今まで、お金について考えることから逃げまわっていた、ということも関係するんじゃないかと思うんです。
 なんでお金について考えてこなかったのかと自己分析をしてみると、たぶん、それは……怖かったんじゃないかなあ。」

冒頭でそう切り出した糸井さんに対して邱さんは、

P23
「お金はね……怖いですよ。
「もしかして自分は、お金のことに対して、あまり能力がないのではないか?」
それは誰でもが、おそれている事柄だと思うんです。」

という返答をし、糸井さんからの質問形式で本編がスタートする。

まず目次を紹介。

糸井重里より、はじめに。

第一章 お金について、どう考えはじめればいいのですか?
お金は怖いものでした
そんなぼくがお金のことを考えた
息子には一年分のお金をあげましたよ
おこづかいはいくらあげてましたか
男の子と女の子とでは、お金の教育が違ってきます
人間は、むやみにはお金を欲しがらない?
子どもにはぜいたくを教えるべきです
不良少年は「何かと、ちょっと早いだけでしょう?
お金は汚いものなんでしょうか?
今のお金の哲学のもとは、徳川時代だと思います
「包丁一本……」じゃ苦しいですよね
倹約してさえいれば安心なのでしょうか?
お金は、貧乏人には大きく見えます
「運」という言葉をたくさん使いますよね
人間は、自分の見たいものしか見ないですから

第二章 事業・株式上場・給料生活。話題のインターネットも
株式上場をするほど落ちぶれていないです
事業って作品のようなものなんでしょうねぇ
今は人が欲しいからお金がいるんです
邱さんって考えていることが先すぎるもん
事業は果樹園のようで、収穫するまでに時間がかかります
給料生活についてどう思われますか?
大陸の人は給料を払う側になって生きたいと考えます
欲望をないものにしたがりますよね
日本人とは違う生き方が必要でしたから
現地採用のつもりで働いたほうがいいんです
学校中退じゃないと、出世できないですよ
四十八歳くらいまでやりたいことがわからなかった
お金の流れは黄河の流域みたいなものです
依存をしていると、生きていられない
人を採用するのは、怖いです
邱さんの提案を断ったんですけど……
林が深ければ鳥が棲む。水が広ければ魚が泳ぐ
ネットバブルで儲けている人は世間知らずが多いです
「ほぼ日刊イトイ新聞」に邱さんが登場したいきさつ
「ほぼ日」はポテンシャルだけありまして
思ったらすぐにはじめます
中国語で顧客を増やします
ぜんぶ自分でやらないとダメなんです

第三章 人間・邱永漢が知りたくなります
銀行には頭を下げられませんでした
邱さんのご両親はどんな人でしたか?
やっぱり、「ひながた」はあるんだなあ
お金をたくさん持つと苦労が多いです
ぼくの歴史は失敗の連続ですよ
邱さんでさえ惑わされますか?
今までどう惑わされてきたかを聞きたいです
慢心している余裕がありませんでした
権威を等身大で認めています
奥さんがいいこというんですよねえ
結婚にも当たりはずれがありますね
結婚はダメになりかけていると思います
奥さんとどうお知りあいになったのですか?
隣の家はクレオパトラの屋敷のようでした
邱さん、あのう、さっきの奥さんの話……
あるとき突然ぼくは大金持ちになったんです
鯉に餌やるみたいですね
人と同じことをしていても意味がないんです
いいことは長く続きません
本は、お金儲けの役には立ちません
本当にやりたいことで成功する人は少ない

第四章 人生というゲームを生きるために
不思議なことにいちばん底までは落ちません
心では泣いてますよ
邱さんですら自分を女々しいと思うのですか?
「お金を払うから次も」は困りますよね
人生そのものがゲームです
幸せって何なのかを考えはじめたんですよね
素人のほうが工夫をするからいいんです
前に活躍していた選手は復活しないんですか?

第五章 人の気持ちがわかれば、商売のヒントもわかります
若い人から企業の相談を受けたらどう答えますか?
産業界の推移を一部始終見てたんですよね。おそろしい
糸井さんのインターネットのこの先の展開が楽しみです
100万アクセスにはどうすればいいんですか?
今は、無料のブローカーとしてやっています
まだやらないだけで、すぐにでも商売にはなりますよ
あきさせないのが「あきない」です
インターネットでやれる仕事がわかってきました
人材を集めるコツは、何でしょうか?
「強気八人、弱気二人」で、人とつきあうといいんです
人間の移り変わりは、サイコロのようなものです
苦しみだけを望んでいる人は、半端なことしかできないと思います
苦労したいとは思わないけど、させられるんです
ツメの垢を飲んでも元気にならないですよね
実業と文学の境目に、ネットの読者は惹かれます
商売をするときにはどっちつかずではいけません

第六章 自分のセンスと、お金を容れる器
邱さんにとって、「いい」「偉い」って何ですか?
自分の居場所も変化しているのですか?
「人に信用されている」を、いちばん重んじます
お金が基準じゃ間違いをおこすだろうなぁ
自分をわかることは、できるものでしょうか?
「お金を容れる器」の大きい人と小さい人がいます
ぼくの「お金を容れる器」は、小さくないですか?
仕事が頂点に達する時間が長いほど、繁栄も長いです
人のセンスが、ないがしろにされてきたけれど
座敷牢の逆を実践されてますよね

第七章 未来のことを経験している人は、誰もいないけど
人はもともと孤独なものでしょう
自分を快く思わない人に、心が痛みませんか?
人を信用できなかったら、仕事は何もできません
邱さんは、どういうふうに未来を見ていますか?

邱永漢より、おしまいに。

邱さんは自分の息子に「お金の免疫力」をつける為の教育として、以下のようなエピソードを紹介した。

P27
「でもぼくはね、干渉してはいかんという考えなんです。自分で覚えろと。
だから、例えば、うちの息子がアメリカに留学に行くときにもそうしました。
ふつうだったら、サラリーマンをやっている親は、毎月仕送りをしますよね。「あるお金の範囲内」で暮らせというように。
でも私は、一年分のお金をあげましたよ。

……省略

一ヶ月の間の仕送りだと、たとえむだづかいをしても、最後の一週間だけをパンと水で暮らしていれば、飢え死にはしないわけです。でも、もし一年分を早くに使ってしまったとしたら、あとの残りを生きられないですから。」

「一年分の生活費」を実際に一括で仕送りができる経済力の家庭がどれほど存在するかはおいといて、学生のうちにお金と向き合える機会作るというのは、その後の人生において極めて重要な事だと思う。

実際問題、家庭でも学校でも「お金の使い方に関しての教育」がされる機会はほとんどない。
何か「お金に関する話題はタブー」のような暗黙の空気がそこにはあって、お金に関してのリテラシーは「実際に社会に出て、自分で体験して身につけるもの」という風潮があるような気がする。

しかし、私はお金に関しての教育や、使い方のコツ等は、「実際に社会に出てから」では遅いのではないかと、感じている。

「どうしてタブー視されているか?」という点に関して、邱さんはこう語る、

P40
 日本人は、「自分が生きているのは、お金のためではない」という考えを、どうも、美徳と考えているでしょう。
 それはどこからきているかというと、やっぱり、宮仕えからきていると思います。サムライとして殿様に仕えるのは、決してお金のために仕えているんではないかというか……。そういう秩序の中で育っているからだと思います。
 日本の古い歴史を読んでいると、戦国時代の日本人も、そうでなかったようにも見えます。例えば秀吉が本能寺に信長のカタキを討ちに戻るときには、自分の持っていたお金を家臣たちにぜんぶあげちゃって、「今度ここで勝たなかったら、みんなもう、めしも食っていけなくなるよ」と、あとに引けないように激励していますから。
糸井 それ、ベンチャーですねえ。

糸井さんのこの返しが絶妙である。

本書の最大の魅力はこの二人の掛け合いである。
経験豊富な邱さんの回答は物事の真理をついているかのように思え、そしてそれに対しする糸井さんの返しがまた絶妙。毎回サクッと心に入ってくる。

以下に、印象に残ったフレーズを引用する。

P76
「結論からいえば、今、日本中でいちばんいいと思われている会社に就職しては、いけないんですよ。その会社だって、二十年前にはいちばんいい会社ではなかったのですから。その理論でいえば、今いちばんいい会社は、二十年後に必ずダメな会社になるに決まっています。」

P118
糸井「前に、建築家の建築がダメになるのは、奥さんの影響が大きいという話を聞いたことがあります。建築家の人たちは、年をとって名声を得てくると、自分の奥さんの気に入るような建築ばかりをつくるようになるからなんだそうです。」

P201
「大事業家というのは、同じことをくりかえしている人のことでしょう。自分が失敗しないですむとわかっている安全パイだけ振って、拡大していくだけのことですから。
それに比べると、ぼくなんか、どこかに失敗することを前提として、冒険をやっているようなものですよ。」

P212
「大きな事業を手がけている人でお金をたくさん持っている人は、少ないんです。
もっと大きな仕事をやろうと思うと、もっとたくさんのお金が必要になりますから。」

P214
「お金というのは、明らかに儲ける側と使う側のバランスがとれていないとダメだと思うんですよ。」

本書を読んでいると「常識」というフィルターを外して「本質」を見るという事の大切さをあらためて考えさせられる。

「儲かっている」=「良い」
とか、
「事業が大きい」=「お金持ち」
という物の見方ではなくて、もっともっと本質的に迫った物の見方。
それは、多くの人から言わせると異質な視点に移るかもしれないが、未来を見据えた極めて論理的な物の見方である。

邱さんは「先の展開が見え過ぎて、その時点でその話をしても誰にも相手にされなかった」
という経験がとても多かったとの事。
それは、邱さん自身が「常識というフィルター」を取っ払って、本質を見る癖を身につけていたからなんだと思う。

最後に、

P234
糸井「だまされたことで臆病になって、人が信用できなくなったことはありますか?」
「相手が違うと、また元に戻ってしまいますね。
人を信用しなかったら仕事ができないですから。」
糸井「ああ、そうか……はっきりとそうですね。」
「裏切られたりだまされたりすることはあるけれど、僕は基本的に「人を信用することによってしか仕事はできない」と思っています。だから「本当によく懲りないね」といわれるんですけれども。

ここを読んで、邱さんの人柄の素晴らしさが大きく伝わって来た。

この先、自分の人生において、色々な困難も度々あると思うが、
「相手を信用できる心」を、常に持ち続けて行きたいと切に感じた。

———————-

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【書評】「新書がベスト」小飼弾


新書がベスト (ベスト新書) 新書がベスト (ベスト新書)
小飼 弾

ベストセラーズ 2010-06-09
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「本を読むのがもっともっと面白くなる本」

月間100万PVを誇る有名書評ブロガー「小飼弾」さんの「読書」に関する書籍。

まず、目次を紹介。

序章 生き残りたければ、新書を読め
1.なぜ今、本を読まなければならないのか
2.新書以外は買わなくていい

Part1 新書の買い方、読み方
1.読書レベル0からの【初級編】
2.なんとなく読みはじめてからの【中級編】

Part2 新書を10倍生かす方法
1.タイトルから本の出来を測る
2.ダメ本も味わう
3.疑うことを楽しむ
4.洗脳されずに自己啓発本を読む
5.話題の本とは距離をおく
6.ジュニア向け新書はこんなに楽しい
7.複数の新書を同時に読む
8.本で得た知識を活用する
9.「超」整理法で本を整理する
10.ウェブを使って本を読む

Part3 新書レーベルめった斬り!
1.貫禄のある老舗レーベル
新書スタイルはここから生まれた「岩波新書」
じっくりと時間をかけて仕上げる「中公新書」
社会派老舗の風格「ちくま新書」

2.新書界の革命児たち
目の付け所が光る「光文社新書」
新書ブームをつくった「新潮新書」
クリーンヒット率の高い「幻冬舎新書」
節操のなさが強みでもある「PHP新書」
すぐれた海外翻訳モノ「ハヤカワ新書juice」

3.科学を楽しむ新書レーベル
科学系新書の元祖「ブルーバックス」
カラーと図版の勝利「サイエンス・アイ新書」
ハズレ率の驚異的な低さ「DOJIN選書」

4.セットで買いたい新書レーベル
右寄りと左寄りで好対照「集英社新書」「文春新書」
コンセプトが迷走?「講談社現代新書」「講談社+a新書」
事情はわかるが紛らわしい「角川oneテーマ21」「角川SSC新書」
大人こそ読みたい「岩波ジュニア新書」「ちくまプリマー新書」

5.色が定着してきた熟成期レーベル
元祖「ライフハック本」「宝島新書」
かくも楽しきニッポン文化「平凡社新書」
実用知識をユニークな構成で見せる「新書y」
スゴ本、ダメ本 玉石混淆の「青春新書インテリジェンス」
ルポが光る、新聞社系新書「朝日新書」
エコとエロが共存する「ベスト新書」

6.テーマの鮮度が命の上昇中レーベル
IT好きにうれしいラインナップ「アスキー新書」
派手なグループの地味なレーベル「ソフトバンク新書」
今後が楽しみ「マイコミ新書」

新書と電子ブックの未来
コラム
あとがき

P14
「これからの世の中で生き残りたければ、新書を読め。
本書で私が言いたいことは、たったこれだけのことにすぎません。」

最初にこう切り出し、「何故本を読む事が大切か」「推奨する新書の購入法」「読書を生かす方法」等々、著者の推奨する読書法が展開されていく。

何よりも興味深いのが今回著者が「新書」にこだわった事。
「何故、新書なのか?」という事に関して、抜粋すると以下のようなメリットが書かれている。

・片手で持ちやすく、場所を取らない
→持ち運びが楽・置き場所を選ばない

・ハードカバーに比べて価格が安い
 →たくさん購入ができる

・装丁でごまかせないので、中身で勝負している分、内容の平均品質が高い

・同一レーベルでの「抱き合わせ購入」をしやすく、様々な分野に触れる機会がある
 →レーベルの大人買いができる

勝間和代さんの書籍「効率が10倍アップする新・知的生産術」(後日レビューします)では「2000円以上のハードカバーの本を読む」事が推奨されているが、小飼弾さんのまったく逆のアプローチは、とても興味深く刺激があり、私自身新書がとても好きで愛着を持っていたのでとても嬉しかった。

「新書の買い方」として、著者は「大人買い」を推奨していて、下記のような方法が紹介されている。

P36
「新書コーナーが充実している(リアルの)書店に行って、そこにある新書を「選ばず」「適当に」、まとめ買いしてください。
……省略
複数レーベルを混在させる必要もありません。老舗レーベルなら100冊以上は優に揃っていますから、棚からごっそり取り出して、レジに持って行きます。」

私は、著者の「大人買いの読書法」を普段から実行していて、この方法はたくさんの本に触れる為にとても有効的な手段であると実感をしている。
「新書がベスト」を読んでからは、タイトルを見ないで同一レーベルの「棚買い」も開始した。

「読書法」の本は世の中にたくさんあるが、本書が他の読書法系の本と一線を画している印象的な点として、Part3の「新書レーベルめった斬り!」の章の存在がある。

この章では、著者が有名新書レーベルの「特徴」「お勧め本」「ダメ本」を、レーベル別に紹介するという斬新な展開がされている。
私は以前まで、本を買う時にレーベルを特に意識する事はなかったが、この章を読んでからレーベルを意識するようなったし、そしてなんといっても各レーベルに愛着が持てるようになった。
自分が今まで購入した事のないレーベルが紹介されていたりと、新しい購買意欲も誘われた。
そして、本を読む楽しみがまた一つ増えたのでとても嬉しい。

本書を読んでいると、著者がいかに読書を愛しているかが伝わって来る。
そして、読んだ側も「もっともっと色々な本を読みたい」と思わせてくれる素晴らしい良書だと感じた。

———————

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【映画レビュー】「父、帰る」


父、帰る [DVD] 父、帰る [DVD]

角川書店 2005-04-08
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あらすじ
————-
アンドレイとイワンの兄弟は、母親と祖母と共に暮らしており、父親の顔は写真でしか知らない二人だったが、ある日12年ぶりに父親が帰ってきた。これまでどこにいたのか全く語らない父親に当惑する二人だが、父親は明日から二人を連れて旅に出るという。翌朝、3人はつり道具と共に車で出かけるが、父親は行き先も告げず、高圧的な態度で子供達に接する。兄のアンドレイはそれでも父親に好意的だったが、弟のイワンは不満を募らせてゆく。
(Wikipediaより)
————-

唯々、”感じる”しかない映画であった。

この映画はとにかく説明がほとんどない。
その代わりに、登場人物の表情で彼らの心境を想像する事になる。
「普段観ている映画がどれだけ丁寧に説明がされているか」という事がとても実感できる。

説明がないものだから、私が彼らにアプローチする為には、「考える」という選択肢しかなくなる。
だから、必死で考える。
少しでも、彼らに近づきたい。

何故、父はそうするのか、
何故、兄はそうするのか、
何故、弟はそうするのか、

そうする事で「彼らと私の距離」はだんだん近づいて来る。
しかし逆に「父と子達」の距離は離れて行く。
それは、唯々、もどかしい。

だが、度々表れる「モノトーンの世界」が私を救ってくれる。
そう、この映画は、映像がとても美しい。
思わずうっとりしてしまうような美しいカットが散りばめられている。
まるで、”「父と子達」と「彼らを優しく見守っている大自然という母」という対比”をさせているのではないかと思ってしまう程。

終盤の展開はまったくの予想外で、一瞬戸惑いを感じてしまったが、
それからはストイックなまでにさらに説明がなくなる。

そうなってしまうと、もはや「考える」というアプローチも無意味な事に思えてきた。
だから私は「考える」のを辞めた。
「考える」のではなく、唯「感じる」だけになる。

そうして観終わった時には、言葉は何も浮かばなかった。
上手い具合にあてはまる言葉が見つからない。
しかし、その分言葉にできなかったたくさんの感覚が心に残った。

その一つ一つの感覚は皆違う顔を持っているように見えた。
悲しそうだったり、怒っていそうだったり、嬉しそうだったり、、、

そう、まるで人間を見ているようだ。

—————
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【映画レビュー】「きみに読む物語」


きみに読む物語 スタンダード・エディション [DVD] きみに読む物語 スタンダード・エディション [DVD]
ニコラス・スパークス

ハピネット 2006-10-27
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あらすじ
———–
認知症を患い過去を思い出せずにいる老女と共に、療養施設へ入寮しているデュークは、ノートに書かれた物語を彼女へ読み聞かせている。物語は、1940年のアメリカ南部シーブルックを舞台にした、青年ノアと少女アリーのひと夏の出来事であった。
(Wikipediaより)
———–

「奇跡」は起こらなかった。
しかし、その物語が”既に”奇跡であった。

この映画の登場人物、「誰の立場で見るか」によって、「善人」に見えたり「悪人」に見えたりする。
それは激しい憎しみの対象だったりするんだけど、しかし、ぽろっと正反対の一面が見れたりする。
その時に、「あぁだ、こうだ」と、一方的に人を責める事なんでできないと痛感する。

結局、この映画には誰一人として「悪人」はいないし、「善人」もいない。もし存在するように思えるのなら、それは私たちが無意識に登場人物の誰かの心境へフォーカスし、色眼鏡(フィルター)で他の人物を見てしまっているからだ。

そもそも映画等の物語というのは、登場人物の心境と自分の心境を同調させる事が楽しみの一つである。
そのほとんどは「主人公の心境」に偏る傾向があるような気がするんだけど、この映画は、どの登場人物にでも自分の心境を重ねやすく構成されている。
だからこそ、ただの恋愛系という枠に収まらずに色々考えさせられる。

「誰も悪くないし、誰も正しくない」
「正しい行動も、間違った行動もない」

じゃあ、何を信念にするのか?

それは、
「私はどうしたいか?」

という事。

彼らにとっての
「私はどうしたいか?」の答え、

それは

「あなたを愛したい」
という事。

彼らは、壁にぶつかりながらも「私はどうしたいか?」を貫いた。
一生をかけて。

それによって「傷ついた人」もいれば、「幸せを感じた人」もいるだろう。

「それは正しいのか間違っているのか?」
その問いに対して、私には誰もが納得をする答えを出す事はできないだろう。
それはほとんどの人がそうだと思うし、おそらく主人公達も同じだったんだと思う。

だから、既に明らかになっている事を信念に生きるしかない。

明らかになっている事とは何か?

それは、
「私はどうしたいか?」という問いの答えである。

人は無意識にその答えに対して「分からないフリ」をしてしまうが、
その問いの答えはどんな時でも明らかである。
明らかにしてしまう事を恐れているのだ。

人は、明らかな事に気がついてしまった時、迷いがなくなる。
誰もそれを止める事ができない。
そしてひたすら突き進むのだろう、一生をかけて。

—————
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【映画レビュー】「ユージュアル・サスペクツ」


ユージュアル・サスペクツ [DVD] ユージュアル・サスペクツ [DVD]
クリストファー・マッカリー

パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン 2006-09-08
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「iTunes Store」
http://itunes.apple.com/jp/movie/id394619022

あらすじ
———–
カリフォルニア州のある港で大規模な殺人事件が起こる。捜査官クイヤンは、事件で唯一生き残った男、ヴァーバル・キントを呼び出す。ヴァーバルはその殺人事件が起こるまでの過程、起こった様子を詳細に語る。そして、ヴァーバルは事件の元凶であり実行者である、顔も声も知らずただ伝説的な噂のみが独り歩きする謎のギャング「カイザー・ソゼ」の名前を口にする。はたして、カイザー・ソゼとは何者なのか?事件の全容とは一体何なのか?
(Wikipidia「ユージュアル・サスペクツ」より)
———–

ひっくり返って、もう一回ひっくり返って、そしてまた最初から再生。

1995年のアメリカ映画、上映時間は106分で展開もテンポよく進んで行く。

この映画、最初はよく意味が分からなかった。
観ているうちに”現在”と”過去”の「時間軸が2つ」でストーリーが構成されている事が分かる。
ハラハラドキドキ等は特にないのだが、「現在と過去」の時間軸が混ざっている為、頭の中でとにかく考えさせられる。

しかし、映画は「テンポよく」進んで行く。

そう、これがおそらくこの映画の狙いで、テンポよく過去と現在を交差させて、観ている側を混乱させサスペンスの世界に見事に引きずり込んでいる。

少し混乱気味に観ながら、それでも少しずつ意味が分かってきた終盤、突然衝撃の展開が起こる。
それにより色々な事が頭の中で繋がり、「あぁ、そうか、あれは、それで、これで」と、頭の中で必至にこれまでの展開を整理し、今までの混乱を解決させていく。
一気にこの映画への理解が深まる。

が、
畳み込むようにさらなる展開が起こる。
それを観て、もはや「混乱」することは出来なかった。
スッカリ映画を理解した気になっていた自分は、茫然自失。

そして一言
「負けた」

と、心の中で呟いた。

その「映画の真実」を理解した時、同時に「自分の負け」も理解した。

しかし、滅多に経験できない、素晴らしい「負け」であった。

——————
▼関連項目
Wikipedia「ユージュアル・サスペクツ」

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【書評】「一流の思考法 WBCトレーナーが教える「自分力」の磨き方」


一流の思考法 WBCトレーナーが教える「自分力」の磨き方 (ソフトバンク新書)
一流の思考法 WBCトレーナーが教える「自分力」の磨き方 (ソフトバンク新書) 森本 貴義

おすすめ平均
stars生活の中の、ひとつひとつの行動が常に「チャレンジ」と「試行錯誤」
stars自分の磨き方
stars結果よりプロセス
stars「成功」よりもまず「成長」を!
starsとても読みやすかったです。

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「型を作ると楽になる」

iPhone版、電子書籍で購入。

日本、アメリカ両方でプロ野球トレーナーとして活動してきた森本貴義さんが、イチローやその他一流選手の普段の様子を間近で見てきた体験を基に、一流選手達の共通点をまとめた一冊。

以下は目次。

第一章 失敗率という考え方
~失敗が少ないとはどんな人?~
1 そもそも、世の中に失敗はない
野球は失敗のスポーツ!?/失敗と成功は表裏一体
2 結果主義者とプロセス主義者
世界記録を生み出す秘訣/プロセスが結果を制す!?
3 結果主義はプロセス主義には勝てない
下にしか向かわないらせん階段/自分と自分を比較する/ドラフト制度が抱える「矛盾」
4 結果はすべて自分のせい
失敗日米比較/コーチの指導は絶対か!?

第二章 無意識のチカラ
~失敗を減らすために、一番重要なこと~
5 無意識に仕事をしよう
歯磨きに失敗はない
6 無意識の必要性
通勤と知らない街への訪問、どちらが疲れる?/意識しすぎて凡ミス/頭よりも体を反応させる/「余計な意識」は、プロの体をも硬直させる
7 無意識のチカラを高めるために必要な”約束”
愚直に実施している「目標」
8 「約束」とは、準備に時間を割くこと
あなたにとって「本番」はどこか?/あなたにとって「準備」とは何か?/合同練習が多い日本のプロ野球/あなたが求めるカレーの味は?
9 強みがあればメジャーリーガーになれる
イチロー選手のトレーニングをしても、イチロー選手にはなれない/「弱みを補完する」 VS 「強みを強化する」
10  準備こそがあなたの自信になる
人の評価で自信は生まれるか?/あなたの評価は、十人十色/いざというとき、自分と他人、どちらを信用するか?

第三章 無意識のチカラを作り出す「4つの型」
~ルーティーンが成果を生み出す~
11 型のチカラ
レシピがあると、料理が楽になる/イチロー選手のヒットのレシピとは/仕事を型にしよう
12 一日の型をつくろう
イチロー選手の地味な一日/「型」は、本番と準備で構成される/同じ時間に同じことを
13 仕事モードに入る型をつくろう
神経をコントロールしよう!?/あなたの「朝のスイッチ」はどこにある?
14 プライベートになれる「型」をつくろう
一日の終わりのスイッチが、あなたの健康を左右する/「OFF」のスイッチは、体と心の二段構えで
15 つまずいたときに立ち直る「型」をつくろう
人生と試練は切っても切り離せない/試行錯誤をいつまでも続けられるか?/長谷川選手から頂いた新しい経験/今、未来、過去で一番大切なものは?

第四章 道づくりと体づくり
~あなたの体に成功は宿るか~
16 人の評価に惑わされるな
無意識なのに疲れる人々/あなたは、メディア依存型の評価をしていないか
17 あなたの成果は誰のためのもの?
誰のための成果か/社会の中の自分
18 道の発見は、自分の役割を認識することから始まる
強いチームほど個人主義/トレーナーも勝敗のカギを握る
19 道の追求は人生の糧となる
道を持っている人の特徴/道の追求はあなたの人生を豊かにする
20 成功は健康な体に宿る
キレル原因は体の中にあり/あなたの準備に、体づくりは含まれているか?
おわりに

内容は、大きく別けて二つ。
一つは、森本さん自身の日本とアメリカでのスポーツトレーナーとしての活動の経歴的なエピソード。
もう一つが、森本さんが主にイチロー選手等一流アスリート達を身近で見て来た体験から感じた「思考や行動の共通点」をまとめた内容の二つで構成されている。

■特に印象深かった箇所
電子書籍版P55
——
人と自分を比べることは、劣等感を感じる機会を増やし、「私は人より劣っている」と自信を喪失させていきます。なんともったいないことでしょうか。
実は「結果を出す人」は他人と自分を比較しません。では、何と比較しているのでしょう?
その比較対象は、「昨日の自分」にあります。つまり、「昨日の自分」と「今日の自分」を比較しているのです。
「理想のバッティングフォームを実現したい」という目標があった場合、昨日よりも今日のバッティングフォームが理想に近づいていればそれでよい、と考えます。
——

「比べる」という事自体にネガティブな印象を持っていたのだが、「自分自身と比べる」という視点がとても新鮮だった。
人の意識は内ではなく、外に行く事が多いと感じているが、己とどう向き合うか。何か禅の思想に通ずる領域だなと感じた。

■本から得た豆知識
———-
起床してから活動モードをONにする為には、交感神経を刺激するのが良いとのこと、その効果的な方法の一つに、朝熱目のシャワーを首の少し下の部分に1-2分間程当てると交感神経が活発になるとのこと。
———-

日常のあらゆる行動を「型」にしてしまうという考え方が特に参考になった。
型を作る事によって、それらを毎日「無意識」にこなす事ができるようになる。
「歯磨き」を失敗する人がいないように、「練習」「勉強」等々自分に必要な時間を「型」にしてしまう事で、毎日こなしていけるようになる。

ちなみに、イチロー選手はほぼ毎日同じ時間に同じ日程をこなしていて、端から見たらその毎日は極めて「地味」なそうな。
イチロー選手にはイチロー選手なりの最高のコンディションを維持する「型」があり、自分に合った「最高の型」をそれぞれ個人が日々試行錯誤して構築していくことが重要だと感じた。

「不健康」・「悩みが多い」等々、それらはもしかして、日々生活の中で、無意識に「ネガティブな型」を実践してしまっている結果なのかもしれない。
日々の生活で、自分の成長に繋がる新しい型を一つずつ増やして行こうと思う。

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【書評】「人は死ぬから生きられる—脳科学者と禅僧の問答」


人は死ぬから生きられる―脳科学者と禅僧の問答 (新潮新書)
人は死ぬから生きられる―脳科学者と禅僧の問答 (新潮新書)
新潮社 2009-04
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starもう一つの生
star猛烈に面白く、ためになる対談
star良く生きるとは

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脳科学者の茂木健一郎さんと、禅僧の南直哉さんの対談本。
脳科学者と禅僧という一見世界観の違いそうな二人だが、意外にも話は大いに盛り上がる。

以下は目次。

星の友情-茂木健一郎

Ⅰ 無記の智慧
坐禅とクオリア/説明不足の仏教/悟りが最終目標ではない/「答え」より「問い」/科学と宗教の役割/言うべきか、言わないべきか/「無記」の思想/恐山と九十五歳のおばあちゃん/現実と仮想/言語と体験の間/仏教にヒューマニズムはない/苦しいけれど生きていく

コラム「恐山探訪記」-茂木健一郎
恐山の禅僧・南直哉師/死者の「好意」が宿る場所/そして過去は死者へとつながる

Ⅱ 脳の快楽、仏教の苦
裸になれる場所/「信じる」とは何か/脳と身体の矛盾/「自分が自分である」根拠はあるのか/航海者と漂流者/「中心」が忘れているもの/存在の根拠としての欠落/生き方を変えない限り考え方も変わらない/なぜ自分は今、ここにいるのか?/修行僧の見る月/脳の快楽、仏教の苦/人生は「苦」である

Ⅲ 人生は「無常」である
クオリア、仮想、偶有性/「疑団」の破裂/偶有性の反意語/生と死のリアリティ/世界を引き受けるということ/生の現場に寄り添う/私は私を始められない/「あなた」がいて「わたし」がいる/生きている限り安心立命はない/人生を質入れしない/生きていることはまがまがしい/「蓮を咲かせる泥になりたい」/断念せよ、そこから始めるしかない/人生の負債を背負う/ブッダが追求したこと/星の友情

悦楽する知-南直哉

この本は三回の対談に分かれていて、第一回目が2004年で第三回目の対談は2008年と4年越しの期間がかかっている。
科学の分野にいる茂木さんが、対談の回数が後になるに連れて、さらに禅の思想への理解を深めて行く様子が読み取れて、とても興味深く思った。

茂木健一郎さんが研究されているクオリア(脳が感じる様々な質感の事)について、南さんが「座禅をしていると、クオリアというものがよくわかるんです」 と、感銘を受けた話題から対談がスタート。
話題は終始仏教思想について展開されていく。

第二章の対談は第一章から一年後。南さんは第一章の対談後、恐山の院代になり、話題も恐山に来てからのエピソードを中心に展開。

■本から得た豆知識

「無記」
本書の中に度々出て来る「無記」という仏教用語。
茂木健一郎さんはこの「無記」について自身のブログでこのように解説している。

——
釈迦は、「この世界はなぜあるのか」
「人は死後どこにいくのか」「魂はあるのか」
といった大きな問いに対して、「無記」を
貫いた。

人生で本質的なこと、とりわけ、自らの
行動原理にかかわることについて
「無記」が大切なのは、
言葉に表すことでかえって
「動き」が止まってしまうから。

言葉で「こうだ」と決めつけてしまうことは、
うごめく生命体をスケッチするよう
なもの。

「茂木健一郎 クオリア日記」

http://kenmogi.cocolog-nifty.com/qualia/2009/01/post-4512.html
——

個人的には、宗教というのはあらゆる事象について常に独自の「結論」を出しているという印象が強いのだが、茂木さんの説明される釈迦の「無記」に関して考えれば、感覚的な意味合いがとても強いのかなと。この辺りも茂木さんが研究されているクオリアという分野と何か共鳴する点があるのかなと感じた。

南さんと95歳の老女とのエピソード
P41
“私は以前、95歳のおばあちゃんに「極楽に行ける」と言ったことがあります。「和尚さん、死んだら私は良いところへ行けますか」と訊かれて、そう答えた んです。仏教の教理の話だったら「無記」のことを教えて、あるともないとも言いませんよ。ところが95歳のおばあちゃんに問われて、仏教教理の話をして も、それは愚かというものでしょう。だから私は、「行けるに決まってるじゃないの。こんなに努力して、一生懸命がんばったおばあちゃんが良いところへ行か なくて、どこに行くんだ」と答えました。それを嘘だと糾弾されると非常に困る。教理からすれば違っているかもしれない。しかし私とおばあちゃんの間では本当なんです。”

P90
南 「前回も話が出ましたが、釈迦の「無記」というのは、学者や評論家といった理性主義を標榜するインテリには、霊魂の否定と受け取られて 人気があるんですが、真意は違う。「判断しない」というのが最大のポイントです。
茂木 「怖いぐらいの叡智ですよね。私もそこが重要なところだと思います。
南 「それを科学者という理性の極致にいる立場のあなたがおっしゃるから、私は驚いたんです(笑)」

茂木さんも南さんも、おそらく自身の分野では「異端児」なんだと思う。その異端児同士だからこそ、脳科学と仏教でここまで融合できたのではと感じた。

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【書評】「脳疲労に克つ-ストレスを感じない脳が健康をつくる」


脳疲労に克つ―ストレスを感じない脳が健康をつくる (角川SSC新書) 脳疲労に克つ―ストレスを感じない脳が健康をつくる (角川SSC新書)
横倉 恒雄

角川SSコミュニケーションズ 2008-05
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「我慢するくらいなら、食ってしまえ」

医学博士の横倉さんが書いた、健康とダイエットについての本。
横倉さんは世間一般で当たり前に使われている「健康」という言葉に疑問を投げかけ、代わりに「健康度」という言葉を使うようにしているという。

P16
「たとえ病気であっても、元気に毎日を過ごしている人は「健康度」の高い人と言えるでしょう。逆に、これといった病気がなくても、元気無く後ろ向きに毎日を過ごしているような人は「健康度」が低いということです」

そして、こう結論づける。

P17
「健康かどうかを決めるのは、病気の有り無しではありません。ストレスを感じずに、前向きに生きているかどうか。つまり、その人が健康かどうかは、医者が決めるのではなく、決めるのはその人自身。その人自身の”心=脳”が決めているのです」

そして、板倉さんが提唱する食事療法は「快食療法」というもの。

以下目次、

序章 病気じゃないから「健康」なのか?
「健康」って何だろう?/「病気も健康のひとつ」という考え方/健康についての不思議な話/人間ドックに引っかからなければ「正常」か?/「規則正しい生活」はかえって不健康になる?

第一章 現代は「脳疲労」時代
現代人は退化している!?/「脳疲労」のメカニズム/脳のプログラムが破綻すると……/ホルモンと脳疲労の関係/脳疲労度チェック/すべての源は脳/ストレスを解消することで新たなストレスを生む/ストレスを感じない健康な脳をつくる/薬はあなたを支える杖に過ぎない/あなたの症状も、脳疲労が原因?

第二章 快食療法で脳疲労に克つ!
脳疲労を解消する快食療法とは?/自然界に太っている動物がいないのはなぜ?/快の法則とは?/まず空腹より始めよ/ダイエットの常識は快食療法の非常識!/快食療法Q&A/中性脂肪が平均の8倍の私が快食療法にたどりついた理由/快食療法の体験者は語る

第三章 五感をもっと活用して健康脳に
五感を活用するってどういうこと?/五感が鈍くなっている現代人/不自由は自由という逆転の発想/騒音の多い現代で私たちが失ったもの/五感療法の種類/なぜ香りで脳がリラックスするのか~快香療法/植物の生命力・エネルギーをもらう/アロマオイルでマッサージ/手で触れることの大切さ~快触療法/頭皮ケアで脳に直接働きかける/日常的にいい景色を見つける~快景療法/耳を澄ませて~快響療法

第四章 脳疲労を防ぐ生活習慣美容のススメ
生活習慣美容のススメ/余裕のある生活が脳を健康にする/禁止の禁止……「~してはいけない」をやめる/生活習慣美容のキーワード/1 快食の法則~「快適スイッチ」とは?/快適スイッチはどうやって入れる?/満ち足りた気持ちが余裕を生む/笑うことと褒めること/快適スイッチを入れる習慣づくり/遊び心を持って仕事や家事をする/その日の疲れは帰宅する前にゼロにする/2 時空の流れ/時空のサーフィン/1分でもいい、時間の余裕を見つける/自分に合った休養をとる/3 感と勘~動物的な感と勘を磨け!/4 人間関係によるストレスを回避する/ありのままの自分を好きになる/まずは相手の言葉や行動を肯定する/自分と相手との間に一定の距離をおく/ナイスエイジングの時代

第五章 私の理想とする医療のあり方
どんな医者が理想なのか?/病も死も健康のうち/クリニックを訪れる人たちが私の先生/健康外来のこれから

おわりに 健康とはあらゆるものに感謝できる心と身体

著者曰く健康を害したりダイエットの邪魔をする原因のほとんどは「ストレス(脳疲労)」とのこと。
そこで著者は「快の法則」を提唱する。

快の法則
1「禁止の禁止の法則」
こうしなければ、こうあらねばと自分を禁止・抑制することをできるだけしない

2「快の法則」
自分にとって心地よいことをひとつでも始める


その上で「快食」をする事を同時に提唱している。


「快食」とは
1 お腹がすいた時に食べること
2 好きなもの・食べたいものを食べること
3 自分の味覚でおいしく食べること
4 まわりの人と楽しく食べること
5 心ゆくまで食べること

著者が提唱する「快食療法」は従来多くあった「○○してはいけない」「○○を我慢する」という内容と真逆のアプローチで、
「我慢するのを辞めなさい、その代わり思いっきり楽しみなさい、”快”を満喫しなさい」
という主旨である。

P53
「ただし、いけないことがひとつだけあります。食べたことに罪悪感を抱くことです。
「食べてしまった。どうしよう……」
そう思った瞬間、すべてがダメになってしまいます。
食べる事は幸せ。だから、食べたらそのぶん幸せになって当然なのです。好きなものを好きなだけ、おいしく食べなさい。それが「快食療法」」

興味深かった以下のようなエピソードが紹介されていた。

P62
「ある患者さんの例です。「ケーキを食べたいんだけどいいですか?」と聞くのです。
「もちろんいいよ。で、いくつ食べたい?」と私は尋ねました。
すると、「3つですが、多すぎますかね?」とおそるおそる話すのです。
「3つなんて中途半端なことを言わないで、それならいっそ1ホールにしたらどう?」
……(省略)
さて、その彼女が1ヶ月後に来院しました。結局、1週間、ホールでケーキを食べ続けたそうです。それも、有名スイーツ店のケーキです。最高の贅沢ですね。ところが、1週間たったある日、食べてしばらくしたら気持ちが悪くなってきて、食べたものをすっかり吐いてしまったそうです。それ以来、不思議と食べたくなくなったというのです。」

著者はこのエピソードに関して

P63
「脳が満足して、本能が目覚め、味覚も正常になってしまったということなのですよ。この方法は誰にでも効果があります。ただし、ケーキを食べるからといって、食事の量を減らすのはいけません。これも一種の禁止の禁止。食事は食事できちんととる。そのあとに、ケーキを思う存分食べるということにしましょう」

著者は本書で徹底して、「快」を追求し「我慢」を排除する事を提唱している。
食事制限を行うダイエットをしている時に、激しくお腹が空いてしまう状態。
これは脳が「食べては行けない」という我慢の連続でストレスが溜まり、「脳疲労状態」になり、栄養を過剰に欲して急激にお腹が空いたりするとのこと。

その時に、我慢をせず思いっきり食べたい物を満足するまで食べて上げる、そうしてしっかり脳に「快」を与えてやることで「脳疲労状態」が解消され、本来体が必要としていない栄養を特に求めないようになるとのこと。

健康とかダイエットって、無意識に「肉体面」に意識が行きがちだけど、「精神面」(本書では脳の健康)も合わせて考えてあげる事がとても重要で、「肉体面」「精神面」のバランスを考えて行動した場合、「一見逆効果」に思える内容であっても、結果的に「健康度」の高い状態になることができるのかもしれないと思えた本書。

よく考えたら、生き生きしている人って、何事も思う存分やりまくっている人が多い印象がしている。

「食べる時は思いっきり食べる」
「飲む時は思いっきり飲む」
「スポーツする時は思いっきりスポーツする」
「遊ぶ時は遊ぶ」
「仕事をする時は思いっきり仕事をする」

これらに当てはまる人って、例外無く生き生きしている。
「我慢」をしていないから「脳疲労状態」に陥らずに、脳は常にスッキリ、つまり「健康度の高い生活」をしているなぁって。

というわけで、

「我慢するなら、食ってしまえ」

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【映画レビュー】「人のセックスを笑うな」山崎ナオコーラ 原作


人のセックスを笑うな (河出文庫) 人のセックスを笑うな (河出文庫)
山崎 ナオコーラ

河出書房新社 2006-10-05
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原作は男性目線、映画は女性目線。

最初、山崎ナオコーラさんの原作を読んで、
「女性である作者が、どうしてここまで男性目線で物語が書けてしまうのか!!」
と、衝撃を受けてしまい、映画版にも興味を持ち観てみる事に。

しかし、観ていて何か違和感が。
それは「1カットが長い」という事。
正確に測ってはいないが、1カットで平均2分ずつくらいはあると思われる、長いシーンになると1カットで5分以上あると思われるシーンも。
そして、その1カットはほとんど構図が完全固定(Fix)された状態。
何分間も同じ構図でカットが切り替わるわけでもなく、映画が進んで行く。

最初は、この「構図固定」「1カットが長い」という二点に激しい違和感を感じ。
「ダメだ、こんなの素人が作った映画みたいで観てられない」
と、15分で断念してしまった。

しかし、少し時間が経ってから、何か気になる引っかかりを感じ、もう一回観てみる事に。
そして、気がついた。

「あ、これは、わざとそういう手法で撮影しているんだ」
と。

そして、
「これは、もしかして凄い事かも」
と、思ってきた。

普段自分が見慣れている映画等の映像というのは、大変忙しい。
数秒でカットが変わって、構図がドンドン入れ替わる。
そして映像的にも派手だ。
自分はスッカリそれに慣れてしまっていたし、それが当たり前だと思っていた。

一方、この映画のように、カメラ固定、長回しで何が起こるかと言うと、
「映画を観ている」という感覚が薄れてきて、まるで
「日常生活をプライベートカメラで盗撮している」ような錯覚に陥る。

そう、映画(フェイク)っぽくないからこそ、思いっきり日常的(リアル)に見えるんだ。

そして、なんといっても、長いカット達を役者陣はぶっ続けで演技をしているという凄さ。
この映画は「カップル成立直後の初々しい二人りやりとり」なシーンがたくさん出て来るんだけど、
「カメラ固定」「長回し」の二つが重なり、そのあまりのもリアルな錯覚をさせる手法に、

「これは全部、脚本通り???」
「結構アドリブも入っているんじゃないの???」

と、疑ってしまうほど本物のカップルに見えてしまう。
それくらい「映画的」ではなくて、「日常的」なのだ。

そして見終わって思った。
「この監督凄い」と。

どちらかと言うと、
原作は「男性目線」の恋愛観が、
映画は「女性目線」の恋愛観が強く描写されている印象を受けた。
なので、映画を観た時に、原作を読んだ時のような
「男心をそこまで見抜かれてしまった衝撃」
というのは特に感じる事はなかったが、別の衝撃を感じる事のできた素晴らしい映画。

原作と映画、合わせて鑑賞される事をオススメします。

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【書評】「神待ち少女」黒羽幸宏


神待ち少女 神待ち少女
黒羽幸宏

双葉社 2010-02-16
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人は神に認められても、決して満足はしない。
人は人に認められたいんだから。

「神待ち少女」とはインターネット上で相手を募集し、見つかった相手に「食事」をご馳走してもらったり、「部屋」に泊めてもらったりしている若い女の子達の事。
しかし、それでは昔からよくある「援助交際」と特に代わりはないのでは?
という疑問が浮かぶのだが、肝心な点として彼女らは決して「相手とセックスをしない」との事。

本書は冒頭、著者の黒羽さんが打ち合わせの席にて偶然「神待ち少女」という言葉を初めて聴いた所からスタートする。
黒羽さんが「見返りのセックスをしない事」への疑問を相手に尋ねた所こういう返答が返ってきた。

P12
「だからこそ”神”なんじゃないですか? 無償で金や食事、そして寝床を用意してくれる男こそが、彼女たちからすると”神”。見返りを要求しないからこその”神”なんだと思いますよ」

それをきっかけに「神待ち少女」に興味を持ち、取材をする事を決意する事に。

P5
「本書は15年間も女にまつわる記事を手がけてきた物書きが、偶然「神待ち」という言葉と出会ったことから、導かれるようにして神と神の降臨を願う少女たちを追い求めた軌跡である。
願わくは「神待ち」に関する先入観を排除して本書を最後まで読んでいただけたら幸いである。」

以下、目次

はじめに
第一章 神の降臨を願う少女たち
第二章 元神待ち少女の降臨
第三章 神待ち少女の告白
第四章 神の告白
第五章 神待ちの真実
おわりに

著者が実際に「神待ち」の掲示板を利用して、何人かの「神待ち少女」と出会い、取材を進めて行くのだが、援助をする「神」の方にも取材をしている点がとても興味深かった。

P90
「いずれにしても、90年代の援助交際というのはバブルをどこか引きずっていたように思う。いまも援助交際という文化はあるが、基本的にその本質にあるものは、あまり変わっていない。金がないからすぐに金になる援助交際でお手軽に稼ぐ。そんな女たちを「素人」と崇めて金を払う男たちという図式だった。
00年代末期に登場した神待ち少女たちとなにがどう違うのだろう。
神待ち少女は無条件に食事と寝床を用意してくれる男を切望している。決して本番はせず、願った神が降臨するのをひたすら待ち望む。心が病んでいるようにも見えるし、実は新たな生き方を見つけ、楽しんでいるようにも受け取れる」

本書に登場する「神待ち少女」たちのエピソード読んでいて感じた共通点は「自信の喪失」。
彼女らは、他人から褒められる事も、認められる事もほとんどなかった。
自分への「自信」を喪失していて、それをなんとか埋めようとして相手を求めている。
そして、その自信喪失は何処で起こって来たのか???
本書で取材された人物達の多くは「家庭」で起こって来たようだ。
一番身近な存在である「親」に認めてもらえない。
だから見返りを求めない相手を毎日探している。

そしてその自信の喪失は「少女たち」に限らず「神」の側にも言えるのだと感じた。

P124
「こんな刺激的な生活があることを知ったら帰りたいとは思わない。帰ってもどうせ親に馬鹿にされるだけだし。それだったら神に認められたりする方がよっぽどいい」

P125
「それに、彼女たちは自分史を話したがる。会って数分で、リストカットをした過去や、義父に犯された話、薬物に手を染めているという告白をする。そこまでディープなものではなくとも、昔だったら関係が深まり、ある程度の段階を経て、信用できる相手かどうか探ってから話していたような身の上話を平気でする。
……
きっと彼女達の周囲には、まともに話を聞いてくれる大人がいないのだ。」

本書に書かれている少女達の日常生活エピソードは「同じ日本なのか?」と思わず疑ってしまう程、生々しい内容がほとんどである。
少女たちは毎日「神」たちと微妙な駆け引きを続け、「生活」「心」のバランスをなんとか取ろうとしている。

「第五章 神待ちの真実」では、少し衝撃的な展開を迎えることになる。
ある一つの出来事が起こるのだが、この章に関しては、著者の感情がひたすらストレートに書かれていて、読み手側の自分としてはそれらの言葉の一つ一つが感情の攻撃として突き刺さって涙が止まらなかった。
「怒り」「悲しみ」「葛藤」色んな感情が混ざって、著者のどうしようもない精神状態が表現されている。
「世の中には希望も何も存在しないのではないのか?」とも感じてしまった程。

しかし、それを乗り越えた著者の最後の言葉に救われた。
「あぁ、この言葉が嘘じゃないのなら、世の中も捨てた物じゃないな」と素直に感じた。
そして少しだけ嬉しくなってきた。

「神待ち少女」たちが、著者の黒羽さんを信じたように、私も彼の最後の言葉を信じてみようと思う。

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