第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい (翻訳) マルコム・グラッドウェル 沢田 博 光文社 2006-02-23 |
人間は”経験”に束縛されている。
誰かと出会った時・何かの音楽を聴いた時・何かの美術作品を観た時、人はほんの数秒の間に過去の経験を基に膨大な処理をし、一気に結論を出す。
そんな、一気に結論に達する脳の働きは「適応性無意識」と呼ばれているそう。
この本では、その「適応性無意識」=「第一感」について、実際のエピソードを基に解説している。
以下、目次です。
プロローグ
どこかおかしいギリシャ彫刻
なんとなく気づいた必勝の法則
適応性無意識の力
きっと世界が変わる
第1章「輪切り」の力 -ちょっとの情報で本質をつかむ
夫婦げんかの15分ビデオ
夫婦の15年後を予測する
結婚とモールス信号
離婚する夫婦のサイン
学生寮の秘密
訴えられる医者と訴えられない医者
ひと目で見抜く力
第2章 無意識の扉の奥 -理由はわからない、でも「感じる」-
ダブルフォールトを見抜くテニスコーチ
行動を促すプライミング実験
自発的行動は幻
未来のパートナーを「輪切り」にするスピードデート
理想と現実のズレ
説明をできないと話をでっちあげる
第3章 見た目の罠 -第一印象は経験と環境から生まれる
アメリカ至上最悪の大統領
「輪切り」の暗い側面
無意識の連想
無意識な態度が意識的な価値観を裏切る
トップセールスマン成功の秘密
「カモ」と思われやすい客
第一印象を操作する
第4章 瞬時の判断力 -論理的思考が洞察力を損なう
至上最大規模、最もお金のかかった軍事演習
ならず者司令官がコンピューターを破る
即興芝居にみる高度な判断
言語が情報を置き換える
ERの危機 -心臓発作を見分ける確率
情報過多が判断の邪魔をする
ならず者司令官の後日譚
第5章 プロの勘と大衆の反応 -無意識の選択は説明できない
プロが認めたのに成功しないミュージシャン
クリントン大統領と世論調査
コカ・コーラへのペプシの挑戦
「感覚転移」と市場調査の罠
なじみのないものは説明できない
革新的製品は市場調査になじまない
味覚のプロの特殊技能
自分の考えを知る能力の喪失
第一印象を再現できるプロ
「レコード会社のやり方はひどすぎる」
第6章 心を読む力 -無意識を訓練する
ニューヨーク、ホイーラー通りの悲劇
致命的な三つの間違い
顔の表情を解読する
感情は顔の表情から始まる
顔はペニスに似ている
男と女と明かりのスイッチ
最適な覚醒状態とは
興奮すると相手の心が読めなくなる
レーガン暗殺未遂事件の教訓
人は時間がないと先入観に引きずられる
瞬時の判断力を高める訓練
数秒の中にある一生分の判断
エピローグ
仕切り越しのオーディション
目で聴いた審査員
最初の2秒が奇跡を生む
著者のマルコム・グラッドウェルはこう語る。
「最初の2秒で判断する能力は、ごく一部の幸運な人たちだけが持つ魔法の力ではない。誰にでもあり、誰にでもきたえられる」
二つのエピソードを紹介する。
P18
「心理学者のナリニ・アンバディによれば、学生たちに教師の授業風景を撮影した音声なしのビデオを10秒見せただけで、彼らは教師の力量をあっさり見抜いたという。見せるビデオを5秒に縮めても、評価は同じだった。わずか2秒のビデオでも、学生たちの判断は驚くほど一貫していた」
心理学者のナリニ・アンバディは、「訴訟を起こされた医者」と「そうでない医者」を”患者とのやりとりの様子の音声を収録した40秒のテープ”を解析しただけで言い当たる事ができたという。
P45
「判断材料は外科医の声を分析した結果だけ。それで十分、威圧感のある声の外科医は訴えられやすく、声が威圧的でなく患者を気遣うような感じの外科医は訴えられにくかった」
前者は特に専用の訓練を受けたわけでもない人達が共通して出した「訓練無しの第1感」。
後者は、心理学について徹底的に研究をしてきた結果、40秒の素材のみで結論を導けるようになった「訓練をした第1感」。
「第1感」の能力は誰にでもあるが、専用の訓練をすればより専門的で高度な判断を一瞬のうちに下せるようになるとの事。
例えば試食のプロに関しては、
P185
「試食のプロは、特定の食品に対する感想を正確に表現する具体的な語彙を学んでいる。たとえばマヨネーズは外見6項目(色、彩度、色相、輝き、ふくらみ、泡)、食感10項目(唇に触れた時のべたつき、柔らかさ、濃さなど)、風味14項目に渡って評価することになっている。
……
試食のブロはこのような尺度を長年使ってきているので、それが無意識の中に埋め込まれている。」
本書では、その他に「第一感の訓練の結果」として紹介されているエピソードの一部として、
「夫婦の会話を15分間撮影したビデオを観ただけで、将来の結婚生活を予想できる研究者」
「訴えられた医者とそうでない医者を40秒の会話テープを聴いただけで予想できる研究者」
等が紹介されている。
しかしながら、この本では「第1感」の危険な側面についても解説をしている。
そして、それがとても興味深い内容であった。
P20
「しかし無意識の判断のすべてが正しいという保証はない。体内のコンピューターがいつでも正しい判断を下すとは限らないのだ。ときとして、直感的な「第1感」を曇らせる何かが存在する。早く目玉商品が欲しいとか、初恋の相手だとかいう類の事情である。そうだとすれば、第1感を信じていい場合と信じてはいけない場合を区別することは可能なのか。この疑問に答えるのが、本書の第二の目的だ」
それらを解説するエピソードの一つとして、IATという潜在連想テストが紹介されている。
コンピューター画面に一つずつ「単語」が映し出され、その単語を「黒人」「白人」のどちらかに出来る限り素早くボタンを押して分類するという内容。
単語の内容は主にこのような内容
「傷つける」
「凶悪」
「輝かしい」
「素晴らしい」
テスト前に「人種差別の思想はない」と宣言していた多くの人が「出来る限り急いで」という状況下でこのテストを受けると、「輝かしい」「素晴らしい」というポジティブなワードを「白人」に、ネガティブなワードを「黒人」に分類する比率が圧倒的に多かったという。
P91
「私はこのテストを四回受けた。そして自分の醜い偏見が消えることを願った。だが結果は同じだった。これまでにテストを受けた人の80パーセント以上が「白人」を善とする連想をしている。つまり、「黒人」のカテゴリーに悪い意味の単語を入れるのは簡単だが、よい意味の単語を入れるには手間取るのだ」
P91
「人種や性別といった事柄に対する人の態度には二段階あるということだ。ひとつは意識的な態度、すなわち自分で選んだ信念。はっきりと表明した価値観であり、人はこの価値観に基づいて、よく考えて行動する……
第二の段階、すなわち人種に対する無意識な態度であり、考える間もなく自動的に生じる瞬時の連想を測定する。人は無意識な態度を頭で考えて選ぶわけではない……
無意識という巨大なコンピューターは、私たちが体験したこと、会った人、学んだ教訓、読んだ本、見た映画などから得たあらゆるデータを黙々と処理して意見を形作る」
本書では加えて、非常事態に陥った時の人間の生物学的反応についてもエピソード付きで解説されている。
P230
「心拍数が145を超えると、困った事が起こり始める。複雑な運動能力が衰え始める。片方の手を動かして、もう一方の手を動かさずにいるのが難しくなる。……175で認知プロセスが完全におかしくなり始める……。前脳が停止し、中脳、すなわち犬にもある脳の部分(ほ乳類にはみなある)が前脳の働きを乗っ取ってしまう。腹を立てたり、脅えている人と議論しようとしたことはないだろうか? 無理だ。……犬と議論するようなものだ」
アメリカでは、警察署の多くが高速のカーチェイスを禁止していて、その理由の一つとして
「高速のカーチェイスで高度の興奮状態に突入した警官が、追跡後に逃走犯を射殺してしまう」
という事件が多発した為との事。
本書ではその高度に興奮している状態の事を「一時的自閉症状態」と表現している。
そして、その「一時的自閉症状態」は「時間がないとき」にも起こる傾向があるとの事。
P236
「時間がなくなると、人は最低限の直感的な反応しかできなくなる」
時間がない時、人は第一感「無意識の行動」を実行する傾向があり、
そして、その行動は今までのあらゆる人生経験に支配されている。
それが本人の信条的に不本意な行動であったとしても。
偶然職務質問をされた無実で無防備の黒人男性(ディアロ)が警官達に射殺された事件のエピソードでそれが解説されている。
P246
「小柄ということは銃を持っているということに通じる。男が外に一人でいる。午前零時半だ。治安の悪い地区で、たった一人。黒人だ。銃を持っているに違いない。さもなければそこにいるはずがない。しかも小柄だ。真夜中にこんなところに突っ立っているなんて度胸のあるやつだ。銃を持っているに違いない。こんなふうにストーリーができていく」
P248
「この事件は始まりから終わりまで、おそらくこの段落を読むのにかかる時間ほどもかかっていない。だがこの数秒の中には、一生分にも相当するほどの手順や判断が詰まっている。キャロルとマクメロンがディアロに声をかける。ディアロが建物の中に入る。警官が歩道を横切って彼を追いかけ、「銃を持っているぞ!」と叫ぶ。銃を撃ち始める。バン! バン! バン!。静寂。ボスがディアロのそばに駆け寄り、床を見下ろして「いったいどこに銃があるんだ?」と叫び、ウェストチェスター通りまで走って行く。大声で叫んだり、銃を撃ったりしている間に、自分がどこにいるのか分からなくなったのだ。そしてキャロルは何発も弾を受けたディアロの死体の脇にしゃがみ込み、泣き出した。」
この本を読むに、人間の「瞬時の判断・行動」はそれまでの人生経験、つまり「過去」に大きく支配される傾向がとても高いという事。
それは、普段何気なく接しているテレビ・映画・本・ゲーム・音楽を始めとする芸術作品、そして周囲の人間、それらの影響が、例え本人としては不本意な行動だったとしても、瞬時の判断に直結し、強烈に支配する。
しかし、訓練次第でその「不本意」を変える事も可能になってくる。
だからこそ、我々は普段何気なく接する環境を少し意識してみる必要があるのではないか。
明日の自分が「不本意な第1感の行動」をしない為に。
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