【映画レビュー】「父、帰る」


父、帰る [DVD] 父、帰る [DVD]

角川書店 2005-04-08
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あらすじ
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アンドレイとイワンの兄弟は、母親と祖母と共に暮らしており、父親の顔は写真でしか知らない二人だったが、ある日12年ぶりに父親が帰ってきた。これまでどこにいたのか全く語らない父親に当惑する二人だが、父親は明日から二人を連れて旅に出るという。翌朝、3人はつり道具と共に車で出かけるが、父親は行き先も告げず、高圧的な態度で子供達に接する。兄のアンドレイはそれでも父親に好意的だったが、弟のイワンは不満を募らせてゆく。
(Wikipediaより)
————-

唯々、”感じる”しかない映画であった。

この映画はとにかく説明がほとんどない。
その代わりに、登場人物の表情で彼らの心境を想像する事になる。
「普段観ている映画がどれだけ丁寧に説明がされているか」という事がとても実感できる。

説明がないものだから、私が彼らにアプローチする為には、「考える」という選択肢しかなくなる。
だから、必死で考える。
少しでも、彼らに近づきたい。

何故、父はそうするのか、
何故、兄はそうするのか、
何故、弟はそうするのか、

そうする事で「彼らと私の距離」はだんだん近づいて来る。
しかし逆に「父と子達」の距離は離れて行く。
それは、唯々、もどかしい。

だが、度々表れる「モノトーンの世界」が私を救ってくれる。
そう、この映画は、映像がとても美しい。
思わずうっとりしてしまうような美しいカットが散りばめられている。
まるで、”「父と子達」と「彼らを優しく見守っている大自然という母」という対比”をさせているのではないかと思ってしまう程。

終盤の展開はまったくの予想外で、一瞬戸惑いを感じてしまったが、
それからはストイックなまでにさらに説明がなくなる。

そうなってしまうと、もはや「考える」というアプローチも無意味な事に思えてきた。
だから私は「考える」のを辞めた。
「考える」のではなく、唯「感じる」だけになる。

そうして観終わった時には、言葉は何も浮かばなかった。
上手い具合にあてはまる言葉が見つからない。
しかし、その分言葉にできなかったたくさんの感覚が心に残った。

その一つ一つの感覚は皆違う顔を持っているように見えた。
悲しそうだったり、怒っていそうだったり、嬉しそうだったり、、、

そう、まるで人間を見ているようだ。

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【映画レビュー】「きみに読む物語」


きみに読む物語 スタンダード・エディション [DVD] きみに読む物語 スタンダード・エディション [DVD]
ニコラス・スパークス

ハピネット 2006-10-27
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あらすじ
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認知症を患い過去を思い出せずにいる老女と共に、療養施設へ入寮しているデュークは、ノートに書かれた物語を彼女へ読み聞かせている。物語は、1940年のアメリカ南部シーブルックを舞台にした、青年ノアと少女アリーのひと夏の出来事であった。
(Wikipediaより)
———–

「奇跡」は起こらなかった。
しかし、その物語が”既に”奇跡であった。

この映画の登場人物、「誰の立場で見るか」によって、「善人」に見えたり「悪人」に見えたりする。
それは激しい憎しみの対象だったりするんだけど、しかし、ぽろっと正反対の一面が見れたりする。
その時に、「あぁだ、こうだ」と、一方的に人を責める事なんでできないと痛感する。

結局、この映画には誰一人として「悪人」はいないし、「善人」もいない。もし存在するように思えるのなら、それは私たちが無意識に登場人物の誰かの心境へフォーカスし、色眼鏡(フィルター)で他の人物を見てしまっているからだ。

そもそも映画等の物語というのは、登場人物の心境と自分の心境を同調させる事が楽しみの一つである。
そのほとんどは「主人公の心境」に偏る傾向があるような気がするんだけど、この映画は、どの登場人物にでも自分の心境を重ねやすく構成されている。
だからこそ、ただの恋愛系という枠に収まらずに色々考えさせられる。

「誰も悪くないし、誰も正しくない」
「正しい行動も、間違った行動もない」

じゃあ、何を信念にするのか?

それは、
「私はどうしたいか?」

という事。

彼らにとっての
「私はどうしたいか?」の答え、

それは

「あなたを愛したい」
という事。

彼らは、壁にぶつかりながらも「私はどうしたいか?」を貫いた。
一生をかけて。

それによって「傷ついた人」もいれば、「幸せを感じた人」もいるだろう。

「それは正しいのか間違っているのか?」
その問いに対して、私には誰もが納得をする答えを出す事はできないだろう。
それはほとんどの人がそうだと思うし、おそらく主人公達も同じだったんだと思う。

だから、既に明らかになっている事を信念に生きるしかない。

明らかになっている事とは何か?

それは、
「私はどうしたいか?」という問いの答えである。

人は無意識にその答えに対して「分からないフリ」をしてしまうが、
その問いの答えはどんな時でも明らかである。
明らかにしてしまう事を恐れているのだ。

人は、明らかな事に気がついてしまった時、迷いがなくなる。
誰もそれを止める事ができない。
そしてひたすら突き進むのだろう、一生をかけて。

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【映画レビュー】「ユージュアル・サスペクツ」


ユージュアル・サスペクツ [DVD] ユージュアル・サスペクツ [DVD]
クリストファー・マッカリー

パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン 2006-09-08
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「iTunes Store」
http://itunes.apple.com/jp/movie/id394619022

あらすじ
———–
カリフォルニア州のある港で大規模な殺人事件が起こる。捜査官クイヤンは、事件で唯一生き残った男、ヴァーバル・キントを呼び出す。ヴァーバルはその殺人事件が起こるまでの過程、起こった様子を詳細に語る。そして、ヴァーバルは事件の元凶であり実行者である、顔も声も知らずただ伝説的な噂のみが独り歩きする謎のギャング「カイザー・ソゼ」の名前を口にする。はたして、カイザー・ソゼとは何者なのか?事件の全容とは一体何なのか?
(Wikipidia「ユージュアル・サスペクツ」より)
———–

ひっくり返って、もう一回ひっくり返って、そしてまた最初から再生。

1995年のアメリカ映画、上映時間は106分で展開もテンポよく進んで行く。

この映画、最初はよく意味が分からなかった。
観ているうちに”現在”と”過去”の「時間軸が2つ」でストーリーが構成されている事が分かる。
ハラハラドキドキ等は特にないのだが、「現在と過去」の時間軸が混ざっている為、頭の中でとにかく考えさせられる。

しかし、映画は「テンポよく」進んで行く。

そう、これがおそらくこの映画の狙いで、テンポよく過去と現在を交差させて、観ている側を混乱させサスペンスの世界に見事に引きずり込んでいる。

少し混乱気味に観ながら、それでも少しずつ意味が分かってきた終盤、突然衝撃の展開が起こる。
それにより色々な事が頭の中で繋がり、「あぁ、そうか、あれは、それで、これで」と、頭の中で必至にこれまでの展開を整理し、今までの混乱を解決させていく。
一気にこの映画への理解が深まる。

が、
畳み込むようにさらなる展開が起こる。
それを観て、もはや「混乱」することは出来なかった。
スッカリ映画を理解した気になっていた自分は、茫然自失。

そして一言
「負けた」

と、心の中で呟いた。

その「映画の真実」を理解した時、同時に「自分の負け」も理解した。

しかし、滅多に経験できない、素晴らしい「負け」であった。

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▼関連項目
Wikipedia「ユージュアル・サスペクツ」

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【書評】「一流の思考法 WBCトレーナーが教える「自分力」の磨き方」


一流の思考法 WBCトレーナーが教える「自分力」の磨き方 (ソフトバンク新書)
一流の思考法 WBCトレーナーが教える「自分力」の磨き方 (ソフトバンク新書) 森本 貴義

おすすめ平均
stars生活の中の、ひとつひとつの行動が常に「チャレンジ」と「試行錯誤」
stars自分の磨き方
stars結果よりプロセス
stars「成功」よりもまず「成長」を!
starsとても読みやすかったです。

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「型を作ると楽になる」

iPhone版、電子書籍で購入。

日本、アメリカ両方でプロ野球トレーナーとして活動してきた森本貴義さんが、イチローやその他一流選手の普段の様子を間近で見てきた体験を基に、一流選手達の共通点をまとめた一冊。

以下は目次。

第一章 失敗率という考え方
~失敗が少ないとはどんな人?~
1 そもそも、世の中に失敗はない
野球は失敗のスポーツ!?/失敗と成功は表裏一体
2 結果主義者とプロセス主義者
世界記録を生み出す秘訣/プロセスが結果を制す!?
3 結果主義はプロセス主義には勝てない
下にしか向かわないらせん階段/自分と自分を比較する/ドラフト制度が抱える「矛盾」
4 結果はすべて自分のせい
失敗日米比較/コーチの指導は絶対か!?

第二章 無意識のチカラ
~失敗を減らすために、一番重要なこと~
5 無意識に仕事をしよう
歯磨きに失敗はない
6 無意識の必要性
通勤と知らない街への訪問、どちらが疲れる?/意識しすぎて凡ミス/頭よりも体を反応させる/「余計な意識」は、プロの体をも硬直させる
7 無意識のチカラを高めるために必要な”約束”
愚直に実施している「目標」
8 「約束」とは、準備に時間を割くこと
あなたにとって「本番」はどこか?/あなたにとって「準備」とは何か?/合同練習が多い日本のプロ野球/あなたが求めるカレーの味は?
9 強みがあればメジャーリーガーになれる
イチロー選手のトレーニングをしても、イチロー選手にはなれない/「弱みを補完する」 VS 「強みを強化する」
10  準備こそがあなたの自信になる
人の評価で自信は生まれるか?/あなたの評価は、十人十色/いざというとき、自分と他人、どちらを信用するか?

第三章 無意識のチカラを作り出す「4つの型」
~ルーティーンが成果を生み出す~
11 型のチカラ
レシピがあると、料理が楽になる/イチロー選手のヒットのレシピとは/仕事を型にしよう
12 一日の型をつくろう
イチロー選手の地味な一日/「型」は、本番と準備で構成される/同じ時間に同じことを
13 仕事モードに入る型をつくろう
神経をコントロールしよう!?/あなたの「朝のスイッチ」はどこにある?
14 プライベートになれる「型」をつくろう
一日の終わりのスイッチが、あなたの健康を左右する/「OFF」のスイッチは、体と心の二段構えで
15 つまずいたときに立ち直る「型」をつくろう
人生と試練は切っても切り離せない/試行錯誤をいつまでも続けられるか?/長谷川選手から頂いた新しい経験/今、未来、過去で一番大切なものは?

第四章 道づくりと体づくり
~あなたの体に成功は宿るか~
16 人の評価に惑わされるな
無意識なのに疲れる人々/あなたは、メディア依存型の評価をしていないか
17 あなたの成果は誰のためのもの?
誰のための成果か/社会の中の自分
18 道の発見は、自分の役割を認識することから始まる
強いチームほど個人主義/トレーナーも勝敗のカギを握る
19 道の追求は人生の糧となる
道を持っている人の特徴/道の追求はあなたの人生を豊かにする
20 成功は健康な体に宿る
キレル原因は体の中にあり/あなたの準備に、体づくりは含まれているか?
おわりに

内容は、大きく別けて二つ。
一つは、森本さん自身の日本とアメリカでのスポーツトレーナーとしての活動の経歴的なエピソード。
もう一つが、森本さんが主にイチロー選手等一流アスリート達を身近で見て来た体験から感じた「思考や行動の共通点」をまとめた内容の二つで構成されている。

■特に印象深かった箇所
電子書籍版P55
——
人と自分を比べることは、劣等感を感じる機会を増やし、「私は人より劣っている」と自信を喪失させていきます。なんともったいないことでしょうか。
実は「結果を出す人」は他人と自分を比較しません。では、何と比較しているのでしょう?
その比較対象は、「昨日の自分」にあります。つまり、「昨日の自分」と「今日の自分」を比較しているのです。
「理想のバッティングフォームを実現したい」という目標があった場合、昨日よりも今日のバッティングフォームが理想に近づいていればそれでよい、と考えます。
——

「比べる」という事自体にネガティブな印象を持っていたのだが、「自分自身と比べる」という視点がとても新鮮だった。
人の意識は内ではなく、外に行く事が多いと感じているが、己とどう向き合うか。何か禅の思想に通ずる領域だなと感じた。

■本から得た豆知識
———-
起床してから活動モードをONにする為には、交感神経を刺激するのが良いとのこと、その効果的な方法の一つに、朝熱目のシャワーを首の少し下の部分に1-2分間程当てると交感神経が活発になるとのこと。
———-

日常のあらゆる行動を「型」にしてしまうという考え方が特に参考になった。
型を作る事によって、それらを毎日「無意識」にこなす事ができるようになる。
「歯磨き」を失敗する人がいないように、「練習」「勉強」等々自分に必要な時間を「型」にしてしまう事で、毎日こなしていけるようになる。

ちなみに、イチロー選手はほぼ毎日同じ時間に同じ日程をこなしていて、端から見たらその毎日は極めて「地味」なそうな。
イチロー選手にはイチロー選手なりの最高のコンディションを維持する「型」があり、自分に合った「最高の型」をそれぞれ個人が日々試行錯誤して構築していくことが重要だと感じた。

「不健康」・「悩みが多い」等々、それらはもしかして、日々生活の中で、無意識に「ネガティブな型」を実践してしまっている結果なのかもしれない。
日々の生活で、自分の成長に繋がる新しい型を一つずつ増やして行こうと思う。

—————-

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【書評】「人は死ぬから生きられる—脳科学者と禅僧の問答」


人は死ぬから生きられる―脳科学者と禅僧の問答 (新潮新書)
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新潮社 2009-04
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おすすめ平均 star
starもう一つの生
star猛烈に面白く、ためになる対談
star良く生きるとは

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脳科学者の茂木健一郎さんと、禅僧の南直哉さんの対談本。
脳科学者と禅僧という一見世界観の違いそうな二人だが、意外にも話は大いに盛り上がる。

以下は目次。

星の友情-茂木健一郎

Ⅰ 無記の智慧
坐禅とクオリア/説明不足の仏教/悟りが最終目標ではない/「答え」より「問い」/科学と宗教の役割/言うべきか、言わないべきか/「無記」の思想/恐山と九十五歳のおばあちゃん/現実と仮想/言語と体験の間/仏教にヒューマニズムはない/苦しいけれど生きていく

コラム「恐山探訪記」-茂木健一郎
恐山の禅僧・南直哉師/死者の「好意」が宿る場所/そして過去は死者へとつながる

Ⅱ 脳の快楽、仏教の苦
裸になれる場所/「信じる」とは何か/脳と身体の矛盾/「自分が自分である」根拠はあるのか/航海者と漂流者/「中心」が忘れているもの/存在の根拠としての欠落/生き方を変えない限り考え方も変わらない/なぜ自分は今、ここにいるのか?/修行僧の見る月/脳の快楽、仏教の苦/人生は「苦」である

Ⅲ 人生は「無常」である
クオリア、仮想、偶有性/「疑団」の破裂/偶有性の反意語/生と死のリアリティ/世界を引き受けるということ/生の現場に寄り添う/私は私を始められない/「あなた」がいて「わたし」がいる/生きている限り安心立命はない/人生を質入れしない/生きていることはまがまがしい/「蓮を咲かせる泥になりたい」/断念せよ、そこから始めるしかない/人生の負債を背負う/ブッダが追求したこと/星の友情

悦楽する知-南直哉

この本は三回の対談に分かれていて、第一回目が2004年で第三回目の対談は2008年と4年越しの期間がかかっている。
科学の分野にいる茂木さんが、対談の回数が後になるに連れて、さらに禅の思想への理解を深めて行く様子が読み取れて、とても興味深く思った。

茂木健一郎さんが研究されているクオリア(脳が感じる様々な質感の事)について、南さんが「座禅をしていると、クオリアというものがよくわかるんです」 と、感銘を受けた話題から対談がスタート。
話題は終始仏教思想について展開されていく。

第二章の対談は第一章から一年後。南さんは第一章の対談後、恐山の院代になり、話題も恐山に来てからのエピソードを中心に展開。

■本から得た豆知識

「無記」
本書の中に度々出て来る「無記」という仏教用語。
茂木健一郎さんはこの「無記」について自身のブログでこのように解説している。

——
釈迦は、「この世界はなぜあるのか」
「人は死後どこにいくのか」「魂はあるのか」
といった大きな問いに対して、「無記」を
貫いた。

人生で本質的なこと、とりわけ、自らの
行動原理にかかわることについて
「無記」が大切なのは、
言葉に表すことでかえって
「動き」が止まってしまうから。

言葉で「こうだ」と決めつけてしまうことは、
うごめく生命体をスケッチするよう
なもの。

「茂木健一郎 クオリア日記」

http://kenmogi.cocolog-nifty.com/qualia/2009/01/post-4512.html
——

個人的には、宗教というのはあらゆる事象について常に独自の「結論」を出しているという印象が強いのだが、茂木さんの説明される釈迦の「無記」に関して考えれば、感覚的な意味合いがとても強いのかなと。この辺りも茂木さんが研究されているクオリアという分野と何か共鳴する点があるのかなと感じた。

南さんと95歳の老女とのエピソード
P41
“私は以前、95歳のおばあちゃんに「極楽に行ける」と言ったことがあります。「和尚さん、死んだら私は良いところへ行けますか」と訊かれて、そう答えた んです。仏教の教理の話だったら「無記」のことを教えて、あるともないとも言いませんよ。ところが95歳のおばあちゃんに問われて、仏教教理の話をして も、それは愚かというものでしょう。だから私は、「行けるに決まってるじゃないの。こんなに努力して、一生懸命がんばったおばあちゃんが良いところへ行か なくて、どこに行くんだ」と答えました。それを嘘だと糾弾されると非常に困る。教理からすれば違っているかもしれない。しかし私とおばあちゃんの間では本当なんです。”

P90
南 「前回も話が出ましたが、釈迦の「無記」というのは、学者や評論家といった理性主義を標榜するインテリには、霊魂の否定と受け取られて 人気があるんですが、真意は違う。「判断しない」というのが最大のポイントです。
茂木 「怖いぐらいの叡智ですよね。私もそこが重要なところだと思います。
南 「それを科学者という理性の極致にいる立場のあなたがおっしゃるから、私は驚いたんです(笑)」

茂木さんも南さんも、おそらく自身の分野では「異端児」なんだと思う。その異端児同士だからこそ、脳科学と仏教でここまで融合できたのではと感じた。

————-

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【書評】「脳疲労に克つ-ストレスを感じない脳が健康をつくる」


脳疲労に克つ―ストレスを感じない脳が健康をつくる (角川SSC新書) 脳疲労に克つ―ストレスを感じない脳が健康をつくる (角川SSC新書)
横倉 恒雄

角川SSコミュニケーションズ 2008-05
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「我慢するくらいなら、食ってしまえ」

医学博士の横倉さんが書いた、健康とダイエットについての本。
横倉さんは世間一般で当たり前に使われている「健康」という言葉に疑問を投げかけ、代わりに「健康度」という言葉を使うようにしているという。

P16
「たとえ病気であっても、元気に毎日を過ごしている人は「健康度」の高い人と言えるでしょう。逆に、これといった病気がなくても、元気無く後ろ向きに毎日を過ごしているような人は「健康度」が低いということです」

そして、こう結論づける。

P17
「健康かどうかを決めるのは、病気の有り無しではありません。ストレスを感じずに、前向きに生きているかどうか。つまり、その人が健康かどうかは、医者が決めるのではなく、決めるのはその人自身。その人自身の”心=脳”が決めているのです」

そして、板倉さんが提唱する食事療法は「快食療法」というもの。

以下目次、

序章 病気じゃないから「健康」なのか?
「健康」って何だろう?/「病気も健康のひとつ」という考え方/健康についての不思議な話/人間ドックに引っかからなければ「正常」か?/「規則正しい生活」はかえって不健康になる?

第一章 現代は「脳疲労」時代
現代人は退化している!?/「脳疲労」のメカニズム/脳のプログラムが破綻すると……/ホルモンと脳疲労の関係/脳疲労度チェック/すべての源は脳/ストレスを解消することで新たなストレスを生む/ストレスを感じない健康な脳をつくる/薬はあなたを支える杖に過ぎない/あなたの症状も、脳疲労が原因?

第二章 快食療法で脳疲労に克つ!
脳疲労を解消する快食療法とは?/自然界に太っている動物がいないのはなぜ?/快の法則とは?/まず空腹より始めよ/ダイエットの常識は快食療法の非常識!/快食療法Q&A/中性脂肪が平均の8倍の私が快食療法にたどりついた理由/快食療法の体験者は語る

第三章 五感をもっと活用して健康脳に
五感を活用するってどういうこと?/五感が鈍くなっている現代人/不自由は自由という逆転の発想/騒音の多い現代で私たちが失ったもの/五感療法の種類/なぜ香りで脳がリラックスするのか~快香療法/植物の生命力・エネルギーをもらう/アロマオイルでマッサージ/手で触れることの大切さ~快触療法/頭皮ケアで脳に直接働きかける/日常的にいい景色を見つける~快景療法/耳を澄ませて~快響療法

第四章 脳疲労を防ぐ生活習慣美容のススメ
生活習慣美容のススメ/余裕のある生活が脳を健康にする/禁止の禁止……「~してはいけない」をやめる/生活習慣美容のキーワード/1 快食の法則~「快適スイッチ」とは?/快適スイッチはどうやって入れる?/満ち足りた気持ちが余裕を生む/笑うことと褒めること/快適スイッチを入れる習慣づくり/遊び心を持って仕事や家事をする/その日の疲れは帰宅する前にゼロにする/2 時空の流れ/時空のサーフィン/1分でもいい、時間の余裕を見つける/自分に合った休養をとる/3 感と勘~動物的な感と勘を磨け!/4 人間関係によるストレスを回避する/ありのままの自分を好きになる/まずは相手の言葉や行動を肯定する/自分と相手との間に一定の距離をおく/ナイスエイジングの時代

第五章 私の理想とする医療のあり方
どんな医者が理想なのか?/病も死も健康のうち/クリニックを訪れる人たちが私の先生/健康外来のこれから

おわりに 健康とはあらゆるものに感謝できる心と身体

著者曰く健康を害したりダイエットの邪魔をする原因のほとんどは「ストレス(脳疲労)」とのこと。
そこで著者は「快の法則」を提唱する。

快の法則
1「禁止の禁止の法則」
こうしなければ、こうあらねばと自分を禁止・抑制することをできるだけしない

2「快の法則」
自分にとって心地よいことをひとつでも始める


その上で「快食」をする事を同時に提唱している。


「快食」とは
1 お腹がすいた時に食べること
2 好きなもの・食べたいものを食べること
3 自分の味覚でおいしく食べること
4 まわりの人と楽しく食べること
5 心ゆくまで食べること

著者が提唱する「快食療法」は従来多くあった「○○してはいけない」「○○を我慢する」という内容と真逆のアプローチで、
「我慢するのを辞めなさい、その代わり思いっきり楽しみなさい、”快”を満喫しなさい」
という主旨である。

P53
「ただし、いけないことがひとつだけあります。食べたことに罪悪感を抱くことです。
「食べてしまった。どうしよう……」
そう思った瞬間、すべてがダメになってしまいます。
食べる事は幸せ。だから、食べたらそのぶん幸せになって当然なのです。好きなものを好きなだけ、おいしく食べなさい。それが「快食療法」」

興味深かった以下のようなエピソードが紹介されていた。

P62
「ある患者さんの例です。「ケーキを食べたいんだけどいいですか?」と聞くのです。
「もちろんいいよ。で、いくつ食べたい?」と私は尋ねました。
すると、「3つですが、多すぎますかね?」とおそるおそる話すのです。
「3つなんて中途半端なことを言わないで、それならいっそ1ホールにしたらどう?」
……(省略)
さて、その彼女が1ヶ月後に来院しました。結局、1週間、ホールでケーキを食べ続けたそうです。それも、有名スイーツ店のケーキです。最高の贅沢ですね。ところが、1週間たったある日、食べてしばらくしたら気持ちが悪くなってきて、食べたものをすっかり吐いてしまったそうです。それ以来、不思議と食べたくなくなったというのです。」

著者はこのエピソードに関して

P63
「脳が満足して、本能が目覚め、味覚も正常になってしまったということなのですよ。この方法は誰にでも効果があります。ただし、ケーキを食べるからといって、食事の量を減らすのはいけません。これも一種の禁止の禁止。食事は食事できちんととる。そのあとに、ケーキを思う存分食べるということにしましょう」

著者は本書で徹底して、「快」を追求し「我慢」を排除する事を提唱している。
食事制限を行うダイエットをしている時に、激しくお腹が空いてしまう状態。
これは脳が「食べては行けない」という我慢の連続でストレスが溜まり、「脳疲労状態」になり、栄養を過剰に欲して急激にお腹が空いたりするとのこと。

その時に、我慢をせず思いっきり食べたい物を満足するまで食べて上げる、そうしてしっかり脳に「快」を与えてやることで「脳疲労状態」が解消され、本来体が必要としていない栄養を特に求めないようになるとのこと。

健康とかダイエットって、無意識に「肉体面」に意識が行きがちだけど、「精神面」(本書では脳の健康)も合わせて考えてあげる事がとても重要で、「肉体面」「精神面」のバランスを考えて行動した場合、「一見逆効果」に思える内容であっても、結果的に「健康度」の高い状態になることができるのかもしれないと思えた本書。

よく考えたら、生き生きしている人って、何事も思う存分やりまくっている人が多い印象がしている。

「食べる時は思いっきり食べる」
「飲む時は思いっきり飲む」
「スポーツする時は思いっきりスポーツする」
「遊ぶ時は遊ぶ」
「仕事をする時は思いっきり仕事をする」

これらに当てはまる人って、例外無く生き生きしている。
「我慢」をしていないから「脳疲労状態」に陥らずに、脳は常にスッキリ、つまり「健康度の高い生活」をしているなぁって。

というわけで、

「我慢するなら、食ってしまえ」

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【映画レビュー】「人のセックスを笑うな」山崎ナオコーラ 原作


人のセックスを笑うな (河出文庫) 人のセックスを笑うな (河出文庫)
山崎 ナオコーラ

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人のセックスを笑うな(スマイルBEST) [DVD] 人のセックスを笑うな(スマイルBEST) [DVD]

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原作は男性目線、映画は女性目線。

最初、山崎ナオコーラさんの原作を読んで、
「女性である作者が、どうしてここまで男性目線で物語が書けてしまうのか!!」
と、衝撃を受けてしまい、映画版にも興味を持ち観てみる事に。

しかし、観ていて何か違和感が。
それは「1カットが長い」という事。
正確に測ってはいないが、1カットで平均2分ずつくらいはあると思われる、長いシーンになると1カットで5分以上あると思われるシーンも。
そして、その1カットはほとんど構図が完全固定(Fix)された状態。
何分間も同じ構図でカットが切り替わるわけでもなく、映画が進んで行く。

最初は、この「構図固定」「1カットが長い」という二点に激しい違和感を感じ。
「ダメだ、こんなの素人が作った映画みたいで観てられない」
と、15分で断念してしまった。

しかし、少し時間が経ってから、何か気になる引っかかりを感じ、もう一回観てみる事に。
そして、気がついた。

「あ、これは、わざとそういう手法で撮影しているんだ」
と。

そして、
「これは、もしかして凄い事かも」
と、思ってきた。

普段自分が見慣れている映画等の映像というのは、大変忙しい。
数秒でカットが変わって、構図がドンドン入れ替わる。
そして映像的にも派手だ。
自分はスッカリそれに慣れてしまっていたし、それが当たり前だと思っていた。

一方、この映画のように、カメラ固定、長回しで何が起こるかと言うと、
「映画を観ている」という感覚が薄れてきて、まるで
「日常生活をプライベートカメラで盗撮している」ような錯覚に陥る。

そう、映画(フェイク)っぽくないからこそ、思いっきり日常的(リアル)に見えるんだ。

そして、なんといっても、長いカット達を役者陣はぶっ続けで演技をしているという凄さ。
この映画は「カップル成立直後の初々しい二人りやりとり」なシーンがたくさん出て来るんだけど、
「カメラ固定」「長回し」の二つが重なり、そのあまりのもリアルな錯覚をさせる手法に、

「これは全部、脚本通り???」
「結構アドリブも入っているんじゃないの???」

と、疑ってしまうほど本物のカップルに見えてしまう。
それくらい「映画的」ではなくて、「日常的」なのだ。

そして見終わって思った。
「この監督凄い」と。

どちらかと言うと、
原作は「男性目線」の恋愛観が、
映画は「女性目線」の恋愛観が強く描写されている印象を受けた。
なので、映画を観た時に、原作を読んだ時のような
「男心をそこまで見抜かれてしまった衝撃」
というのは特に感じる事はなかったが、別の衝撃を感じる事のできた素晴らしい映画。

原作と映画、合わせて鑑賞される事をオススメします。

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【書評】「神待ち少女」黒羽幸宏


神待ち少女 神待ち少女
黒羽幸宏

双葉社 2010-02-16
売り上げランキング : 85989

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人は神に認められても、決して満足はしない。
人は人に認められたいんだから。

「神待ち少女」とはインターネット上で相手を募集し、見つかった相手に「食事」をご馳走してもらったり、「部屋」に泊めてもらったりしている若い女の子達の事。
しかし、それでは昔からよくある「援助交際」と特に代わりはないのでは?
という疑問が浮かぶのだが、肝心な点として彼女らは決して「相手とセックスをしない」との事。

本書は冒頭、著者の黒羽さんが打ち合わせの席にて偶然「神待ち少女」という言葉を初めて聴いた所からスタートする。
黒羽さんが「見返りのセックスをしない事」への疑問を相手に尋ねた所こういう返答が返ってきた。

P12
「だからこそ”神”なんじゃないですか? 無償で金や食事、そして寝床を用意してくれる男こそが、彼女たちからすると”神”。見返りを要求しないからこその”神”なんだと思いますよ」

それをきっかけに「神待ち少女」に興味を持ち、取材をする事を決意する事に。

P5
「本書は15年間も女にまつわる記事を手がけてきた物書きが、偶然「神待ち」という言葉と出会ったことから、導かれるようにして神と神の降臨を願う少女たちを追い求めた軌跡である。
願わくは「神待ち」に関する先入観を排除して本書を最後まで読んでいただけたら幸いである。」

以下、目次

はじめに
第一章 神の降臨を願う少女たち
第二章 元神待ち少女の降臨
第三章 神待ち少女の告白
第四章 神の告白
第五章 神待ちの真実
おわりに

著者が実際に「神待ち」の掲示板を利用して、何人かの「神待ち少女」と出会い、取材を進めて行くのだが、援助をする「神」の方にも取材をしている点がとても興味深かった。

P90
「いずれにしても、90年代の援助交際というのはバブルをどこか引きずっていたように思う。いまも援助交際という文化はあるが、基本的にその本質にあるものは、あまり変わっていない。金がないからすぐに金になる援助交際でお手軽に稼ぐ。そんな女たちを「素人」と崇めて金を払う男たちという図式だった。
00年代末期に登場した神待ち少女たちとなにがどう違うのだろう。
神待ち少女は無条件に食事と寝床を用意してくれる男を切望している。決して本番はせず、願った神が降臨するのをひたすら待ち望む。心が病んでいるようにも見えるし、実は新たな生き方を見つけ、楽しんでいるようにも受け取れる」

本書に登場する「神待ち少女」たちのエピソード読んでいて感じた共通点は「自信の喪失」。
彼女らは、他人から褒められる事も、認められる事もほとんどなかった。
自分への「自信」を喪失していて、それをなんとか埋めようとして相手を求めている。
そして、その自信喪失は何処で起こって来たのか???
本書で取材された人物達の多くは「家庭」で起こって来たようだ。
一番身近な存在である「親」に認めてもらえない。
だから見返りを求めない相手を毎日探している。

そしてその自信の喪失は「少女たち」に限らず「神」の側にも言えるのだと感じた。

P124
「こんな刺激的な生活があることを知ったら帰りたいとは思わない。帰ってもどうせ親に馬鹿にされるだけだし。それだったら神に認められたりする方がよっぽどいい」

P125
「それに、彼女たちは自分史を話したがる。会って数分で、リストカットをした過去や、義父に犯された話、薬物に手を染めているという告白をする。そこまでディープなものではなくとも、昔だったら関係が深まり、ある程度の段階を経て、信用できる相手かどうか探ってから話していたような身の上話を平気でする。
……
きっと彼女達の周囲には、まともに話を聞いてくれる大人がいないのだ。」

本書に書かれている少女達の日常生活エピソードは「同じ日本なのか?」と思わず疑ってしまう程、生々しい内容がほとんどである。
少女たちは毎日「神」たちと微妙な駆け引きを続け、「生活」「心」のバランスをなんとか取ろうとしている。

「第五章 神待ちの真実」では、少し衝撃的な展開を迎えることになる。
ある一つの出来事が起こるのだが、この章に関しては、著者の感情がひたすらストレートに書かれていて、読み手側の自分としてはそれらの言葉の一つ一つが感情の攻撃として突き刺さって涙が止まらなかった。
「怒り」「悲しみ」「葛藤」色んな感情が混ざって、著者のどうしようもない精神状態が表現されている。
「世の中には希望も何も存在しないのではないのか?」とも感じてしまった程。

しかし、それを乗り越えた著者の最後の言葉に救われた。
「あぁ、この言葉が嘘じゃないのなら、世の中も捨てた物じゃないな」と素直に感じた。
そして少しだけ嬉しくなってきた。

「神待ち少女」たちが、著者の黒羽さんを信じたように、私も彼の最後の言葉を信じてみようと思う。

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【書評】「第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい (翻訳)」


第1感  「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい (翻訳) 第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい (翻訳)
マルコム・グラッドウェル 沢田 博

光文社 2006-02-23
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人間は”経験”に束縛されている。

誰かと出会った時・何かの音楽を聴いた時・何かの美術作品を観た時、人はほんの数秒の間に過去の経験を基に膨大な処理をし、一気に結論を出す。
そんな、一気に結論に達する脳の働きは「適応性無意識」と呼ばれているそう。
この本では、その「適応性無意識」=「第一感」について、実際のエピソードを基に解説している。

以下、目次です。

プロローグ
どこかおかしいギリシャ彫刻
なんとなく気づいた必勝の法則
適応性無意識の力
きっと世界が変わる

第1章「輪切り」の力 -ちょっとの情報で本質をつかむ
夫婦げんかの15分ビデオ
夫婦の15年後を予測する
結婚とモールス信号
離婚する夫婦のサイン
学生寮の秘密
訴えられる医者と訴えられない医者
ひと目で見抜く力

第2章 無意識の扉の奥 -理由はわからない、でも「感じる」-
ダブルフォールトを見抜くテニスコーチ
行動を促すプライミング実験
自発的行動は幻
未来のパートナーを「輪切り」にするスピードデート
理想と現実のズレ
説明をできないと話をでっちあげる

第3章 見た目の罠 -第一印象は経験と環境から生まれる
アメリカ至上最悪の大統領
「輪切り」の暗い側面
無意識の連想
無意識な態度が意識的な価値観を裏切る
トップセールスマン成功の秘密
「カモ」と思われやすい客
第一印象を操作する

第4章 瞬時の判断力 -論理的思考が洞察力を損なう
至上最大規模、最もお金のかかった軍事演習
ならず者司令官がコンピューターを破る
即興芝居にみる高度な判断
言語が情報を置き換える
ERの危機 -心臓発作を見分ける確率
情報過多が判断の邪魔をする
ならず者司令官の後日譚

第5章 プロの勘と大衆の反応 -無意識の選択は説明できない
プロが認めたのに成功しないミュージシャン
クリントン大統領と世論調査
コカ・コーラへのペプシの挑戦
「感覚転移」と市場調査の罠
なじみのないものは説明できない
革新的製品は市場調査になじまない
味覚のプロの特殊技能
自分の考えを知る能力の喪失
第一印象を再現できるプロ
「レコード会社のやり方はひどすぎる」

第6章 心を読む力 -無意識を訓練する
ニューヨーク、ホイーラー通りの悲劇
致命的な三つの間違い
顔の表情を解読する
感情は顔の表情から始まる
顔はペニスに似ている
男と女と明かりのスイッチ
最適な覚醒状態とは
興奮すると相手の心が読めなくなる
レーガン暗殺未遂事件の教訓
人は時間がないと先入観に引きずられる
瞬時の判断力を高める訓練
数秒の中にある一生分の判断

エピローグ
仕切り越しのオーディション
目で聴いた審査員
最初の2秒が奇跡を生む

著者のマルコム・グラッドウェルはこう語る。

「最初の2秒で判断する能力は、ごく一部の幸運な人たちだけが持つ魔法の力ではない。誰にでもあり、誰にでもきたえられる」

二つのエピソードを紹介する。

P18
「心理学者のナリニ・アンバディによれば、学生たちに教師の授業風景を撮影した音声なしのビデオを10秒見せただけで、彼らは教師の力量をあっさり見抜いたという。見せるビデオを5秒に縮めても、評価は同じだった。わずか2秒のビデオでも、学生たちの判断は驚くほど一貫していた」

心理学者のナリニ・アンバディは、「訴訟を起こされた医者」と「そうでない医者」を”患者とのやりとりの様子の音声を収録した40秒のテープ”を解析しただけで言い当たる事ができたという。

P45
「判断材料は外科医の声を分析した結果だけ。それで十分、威圧感のある声の外科医は訴えられやすく、声が威圧的でなく患者を気遣うような感じの外科医は訴えられにくかった」

前者は特に専用の訓練を受けたわけでもない人達が共通して出した「訓練無しの第1感」。
後者は、心理学について徹底的に研究をしてきた結果、40秒の素材のみで結論を導けるようになった「訓練をした第1感」。

「第1感」の能力は誰にでもあるが、専用の訓練をすればより専門的で高度な判断を一瞬のうちに下せるようになるとの事。

例えば試食のプロに関しては、

P185
「試食のプロは、特定の食品に対する感想を正確に表現する具体的な語彙を学んでいる。たとえばマヨネーズは外見6項目(色、彩度、色相、輝き、ふくらみ、泡)、食感10項目(唇に触れた時のべたつき、柔らかさ、濃さなど)、風味14項目に渡って評価することになっている。
……
試食のブロはこのような尺度を長年使ってきているので、それが無意識の中に埋め込まれている。」

本書では、その他に「第一感の訓練の結果」として紹介されているエピソードの一部として、

「夫婦の会話を15分間撮影したビデオを観ただけで、将来の結婚生活を予想できる研究者」
「訴えられた医者とそうでない医者を40秒の会話テープを聴いただけで予想できる研究者」

等が紹介されている。

しかしながら、この本では「第1感」の危険な側面についても解説をしている。
そして、それがとても興味深い内容であった。

P20
「しかし無意識の判断のすべてが正しいという保証はない。体内のコンピューターがいつでも正しい判断を下すとは限らないのだ。ときとして、直感的な「第1感」を曇らせる何かが存在する。早く目玉商品が欲しいとか、初恋の相手だとかいう類の事情である。そうだとすれば、第1感を信じていい場合と信じてはいけない場合を区別することは可能なのか。この疑問に答えるのが、本書の第二の目的だ」

それらを解説するエピソードの一つとして、IATという潜在連想テストが紹介されている。
コンピューター画面に一つずつ「単語」が映し出され、その単語を「黒人」「白人」のどちらかに出来る限り素早くボタンを押して分類するという内容。

単語の内容は主にこのような内容
「傷つける」
「凶悪」
「輝かしい」
「素晴らしい」

テスト前に「人種差別の思想はない」と宣言していた多くの人が「出来る限り急いで」という状況下でこのテストを受けると、「輝かしい」「素晴らしい」というポジティブなワードを「白人」に、ネガティブなワードを「黒人」に分類する比率が圧倒的に多かったという。

P91
「私はこのテストを四回受けた。そして自分の醜い偏見が消えることを願った。だが結果は同じだった。これまでにテストを受けた人の80パーセント以上が「白人」を善とする連想をしている。つまり、「黒人」のカテゴリーに悪い意味の単語を入れるのは簡単だが、よい意味の単語を入れるには手間取るのだ」

P91
「人種や性別といった事柄に対する人の態度には二段階あるということだ。ひとつは意識的な態度、すなわち自分で選んだ信念。はっきりと表明した価値観であり、人はこの価値観に基づいて、よく考えて行動する……

第二の段階、すなわち人種に対する無意識な態度であり、考える間もなく自動的に生じる瞬時の連想を測定する。人は無意識な態度を頭で考えて選ぶわけではない……

無意識という巨大なコンピューターは、私たちが体験したこと、会った人、学んだ教訓、読んだ本、見た映画などから得たあらゆるデータを黙々と処理して意見を形作る」

本書では加えて、非常事態に陥った時の人間の生物学的反応についてもエピソード付きで解説されている。

P230
「心拍数が145を超えると、困った事が起こり始める。複雑な運動能力が衰え始める。片方の手を動かして、もう一方の手を動かさずにいるのが難しくなる。……175で認知プロセスが完全におかしくなり始める……。前脳が停止し、中脳、すなわち犬にもある脳の部分(ほ乳類にはみなある)が前脳の働きを乗っ取ってしまう。腹を立てたり、脅えている人と議論しようとしたことはないだろうか? 無理だ。……犬と議論するようなものだ」

アメリカでは、警察署の多くが高速のカーチェイスを禁止していて、その理由の一つとして
「高速のカーチェイスで高度の興奮状態に突入した警官が、追跡後に逃走犯を射殺してしまう」
という事件が多発した為との事。
本書ではその高度に興奮している状態の事を「一時的自閉症状態」と表現している。
そして、その「一時的自閉症状態」は「時間がないとき」にも起こる傾向があるとの事。

P236
「時間がなくなると、人は最低限の直感的な反応しかできなくなる」

時間がない時、人は第一感「無意識の行動」を実行する傾向があり、
そして、その行動は今までのあらゆる人生経験に支配されている。
それが本人の信条的に不本意な行動であったとしても。

偶然職務質問をされた無実で無防備の黒人男性(ディアロ)が警官達に射殺された事件のエピソードでそれが解説されている。

P246
「小柄ということは銃を持っているということに通じる。男が外に一人でいる。午前零時半だ。治安の悪い地区で、たった一人。黒人だ。銃を持っているに違いない。さもなければそこにいるはずがない。しかも小柄だ。真夜中にこんなところに突っ立っているなんて度胸のあるやつだ。銃を持っているに違いない。こんなふうにストーリーができていく」

P248
「この事件は始まりから終わりまで、おそらくこの段落を読むのにかかる時間ほどもかかっていない。だがこの数秒の中には、一生分にも相当するほどの手順や判断が詰まっている。キャロルとマクメロンがディアロに声をかける。ディアロが建物の中に入る。警官が歩道を横切って彼を追いかけ、「銃を持っているぞ!」と叫ぶ。銃を撃ち始める。バン! バン! バン!。静寂。ボスがディアロのそばに駆け寄り、床を見下ろして「いったいどこに銃があるんだ?」と叫び、ウェストチェスター通りまで走って行く。大声で叫んだり、銃を撃ったりしている間に、自分がどこにいるのか分からなくなったのだ。そしてキャロルは何発も弾を受けたディアロの死体の脇にしゃがみ込み、泣き出した。」

この本を読むに、人間の「瞬時の判断・行動」はそれまでの人生経験、つまり「過去」に大きく支配される傾向がとても高いという事。
それは、普段何気なく接しているテレビ・映画・本・ゲーム・音楽を始めとする芸術作品、そして周囲の人間、それらの影響が、例え本人としては不本意な行動だったとしても、瞬時の判断に直結し、強烈に支配する。

しかし、訓練次第でその「不本意」を変える事も可能になってくる。

だからこそ、我々は普段何気なく接する環境を少し意識してみる必要があるのではないか。

明日の自分が「不本意な第1感の行動」をしない為に。

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